無伴奏混声合唱「シェーンベルク/地上の平和」待望の日本版がついに発売。出版元の音楽之友社様にお話をお聞きしました!
声楽/合唱/ヴォーカル
無伴奏混声合唱のための
シェーンベルク/地上の平和
Friede auf Erden Op.13
谷 郁 監修/浅井佑太 作品解説
音楽之友社 1,980円
新しい合唱楽譜のシリーズが誕生です!
そのシリーズとは、「日本人による日本人のための海外合唱作品シリーズ」。第一弾として、つい先日「無伴奏混声合唱のための シェーンベルク/地上の平和」が発売となりました。ついては、気になるその内容について、出版元の音楽之友社様にお話をお聞きしました!
—— 「地上の平和」とは、どんな作品ですか?
2024年に生誕150年を迎えたアルノルト・シェーンベルク、彼が33歳で初めて取り組んだ合唱作品、「Friede auf Erden(地上の平和)Op.13」は現代でも世界中で歌われ続けている傑作です。複雑な響きが幾度となく使われるものの、シェーンベルク「最後の調性作品」として作曲史の上でも重要な作品であり、難易度の高い作品ながら日本の合唱団の数々が挑戦してきました。動乱の続く世界、この時代にこそ歌い祈りたい作品です。
—— 出版のきっかけは?
日本の合唱作品と同じくらい外国の合唱作品を愛する音楽之友社の編集担当が、日本人にもっと外国の作品を気軽に楽しんでほしいという願いから生まれた楽譜です。これまでベートーヴェンの「第九」など有名な作品は各社から発行されてきましたが、日本の合唱界でより根強く歌われている海外作品をご紹介する意図で生まれました。
—— 今回の楽譜の特徴について教えてください。
外国の合唱作品を気軽に楽しんでほしいと願うものの、実際に外国の作品を日本の合唱団が演奏しようとすると、以下の問題に直面すると思います。
➀外国語の歌唱発音の問題
➁作品に登場する言葉(詩)の邦訳の問題
➂輸入コストの高騰などによる外国作品楽譜の入手難易度の問題
これらを解決すべく今回提案したのがこの楽譜です。“日本人による日本人のための”海外合唱作品シリーズと題し、現地で学んだ合唱指導者による監修で、分かりやすい作品解説と発音ガイドを掲載しております。今回のための楽譜浄書は歌う人たちにとって、より使いやすいものを目指して新しく制作しました。価格面でも海外出版社の商品よりも手に取りやすい価格で発行しております。
サンプルぺージ
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参考演奏:『Schoenberg: Friede auf Erden』
(合唱:vocalconsort initium/指揮:谷郁)
—— これから楽譜を手にする方、作品に取り組む方へのメッセージをお願いします。
実際に楽譜を手に取っていただき、まずはこの作品について解説や発音を読みながら、演奏をお聞きいただきたいです。演奏者はもちろんですが、聴く側の方にもこれまでになかった貴重な資料が詰まっている楽譜となります。もちろん演奏者にも非常に手助けとなる画期的なシリーズです。今後も作曲家の周年に合わせて、魅力的な作品を制作をしていきます。
著者プロフィール
谷 郁 (タニ カオル) (監修)
1987年生まれ。国立音楽大学声楽科卒業、声楽コース及び合唱指導者コース修了。在学時より声楽家、アンサンブルシンガーとして積極的に演奏活動を行う一方で、合唱指揮者としての活動を開始し、オペラ「オルフェオ」公演、児童合唱、大学内演奏会等の指揮者を務めた。卒業後、2011年より合唱指揮を学ぶために渡欧。ウィーン国立音楽大学指揮科(合唱指揮及びオーケストラ指揮専攻)を経て2017年にグラーツ国立音楽大学大学院合唱指揮科を修了。在学中はウィーンを中心に、Arnold Schoenberg Chor(アーノルド・シェーンベルク合唱団)、Wiener Singverein(ウィーン楽友協会合唱団)、Vokalensemble St. Stephan(シュテファン寺院ヴォーカルアンサンブル)の合唱団員として、数多くの演奏会に出演し、アーノンクールをはじめとする多くの著名な指揮者及びウィーンフィルやベルリンフィル等のオーケストラと共演を重ねた。2017年に帰国し、現在は日本で首都圏を中心に、指揮者・合唱指導者として広く活動している。
浅井 佑太 (アサイ ユウタ) (作品解説)
京都大学人文科学研究所准教授。1988年大阪生まれ。京都大学文学研究科で美学美術史学を修了後、ケルン大学哲学科音楽学研究所で博士号(Dr. phil.)を取得。専門は19世紀以降の西洋音楽。2017年にパウル・ザッハー財団訪問研究員、2019年にアントン・ウェーベルン全集編纂所実習生(バーゼル大学)を経て、2021年よりお茶の水女子大学音楽表現コース助教、2024年より現職。主な著作に『Anton Webern: Komponieren als Problemstellung』(Franz Steiner)、『作曲家◎人と作品 シェーンベルク』(音楽之友社)など。
コンラート・フェルディナント・マイヤー (作詩)
スイスの作家・詩人。ケラー、ゴットヘルフらとともに19世紀スイスのドイツ語圏を代表する作家である。チューリヒに生まれ、富裕な門閥の家系であったため経済的不安は少なく、長じてからも生涯定職を持たずに過ごした。繊細で夢想的な性質から学校の喧騒に耐え切れず退学、15歳で父が死去してからはカルヴァン教信徒の母からの厳格な教育を受け、母からの抑圧、神経症や自殺衝動に悩みながら不安定な青年期を送る。1856年の母の自殺が自己回復の契機となり、イタリア旅行でのミケランジェロ体験やテオドール・フィッシャーのリアリズム理論に導かれながら作家を志す。1871年、ドイツ帝国成立に対する感激から書かれた叙事詩『フッテン最後の日々』が成功を収める。以後ルネサンス、バロックに取材した客観的文体による歴史小説にも手を染め、『ユルク・イェーナチュ』(1876年)、『ペスカラの誘惑』(1887年)など、20年間で十一篇の作品を執筆した。
アルノルト・シェーンベルク (作曲)
オーストリアのユダヤ系作曲家。ウィーンに生まれ、作曲は後年ツェムリンスキーに短期間学んだ以外ほとんど独学で修めた。20世紀音楽の方向を決定づけた作曲家の一人で、無調音楽からさらに十二音音楽を築き、門下のウェーベルン、ベルクとともに第2次ウィーン楽派(新ウィーン楽派)とも呼ばれる。ウィーンではマーラーとも親交を結び、弦楽六重奏曲《清められた夜》(1899年)、語り手と独唱、合唱、大管弦楽のための《グレの歌》(1900年-1911年)などで後期ロマン派の表現様式を極限まで突きつめたのち、徐々に調性からの離脱を示した。《架空庭園の書》(1909年)などで無調時代に入り、《月に憑かれたピエロ》(1912年)などの傑作が誕生。《ピアノ組曲》で12音技法を確立。1925年にベルリンに移り、ナチスの台頭により1933年に米国へ亡命、1941年米国市民権を取得。その後も、ナチズムの犠牲者に棒げられた《ワルシャワの生残り》(1947年)などの密度の高い作品を残した。
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作曲家◎人と作品 シェーンベルク 浅井佑太/著 音楽之友社 商品ページへ | 十二音技法を生み出し、ベルクやウェーベルンらとともに新ウィーン楽派を立ち上げ後世に多大な影響を与え続ける20世紀最大の作曲家のひとり、アルノルト・シェーンベルク(1874-1951)。ブラームス、R.シュトラウス、そしてマーラーたちが君臨する当時の超保守的なウィーンやベルリンの楽壇で、独学の天才シェーンベルクはいかにその楽才を育んだのか。さらに、アメリカへの亡命を機にユダヤ人としてナチスに立ち向かっていくなかで彼が目指した音楽とは―― 全体は生涯篇、作品篇、資料篇の3部構成。生涯/作品篇では、近現代のドイツ音楽を専門とする気鋭の著者が、歴史に翻弄された孤高の作曲家の生き様を音楽的な変遷を織り交ぜながら圧倒的な筆力でもって描き切る! 資料篇では作品番号付きのものに加え、番号が付されてないものも全て収載し、創作を広く概観できる。知識を吸収すると同時に、シェーンベルク作品を聴く耳をも開いてくれる一冊。 今回の「地上の平和」作品解説を手がけられた浅井佑太さんによる、第2回音楽本大賞 個人賞受賞作品です! |
シェーンベルクと若きウィーン テレーゼ・ムクセネーダー 著/阿久津三香子訳/樋口隆一日本語版監修 アルテスパブリッシング 商品ページへ | カフェでの集会、殴り合い、差別と迫害、新聞沙汰── 「音楽の革命」の真実を膨大な資料と図像で描く比類なきドキュメント。荒ぶる芸術家たちの青春群像がいまよみがえる! 世紀末ウィーンにおいて、演劇、音楽、建築、工芸、彫刻などの分野で同時多発的な革新が起こった。「若きウィーン」を名乗り、「モデルネ(近現代)」の温室たるこの都市を舞台に、血気盛んな活動を繰りひろげる若手芸術家たち。 本書は「新ウィーン楽派」の首領にして、20世紀音楽最大のオリジネイターである作曲家アーノルト・シェーンベルク(1874-1951)を中心に、「若きウィーン」を標榜した芸術家たちの活動を、膨大な同時代資料と証言、そして数多くの図像によってあとづけた画期的なドキュメント。 シェーンベルク生誕150年記念出版! |