ソナタ ト短調
ベベル写本 第16番
★解題★
17世紀終わりごろのリコーダーソナタ 25曲を中心とする、チャールズ・バベルの写本(ロチェスター大学シブレー図書館所蔵)で、第16番として収録されているソナタです。
★解説★
5つの楽章から成っています。 第2楽章に通奏低音による後奏があるのは、17世紀末ごろの作品によくみられる特徴です。遅い楽章の深い味わいといい、早い楽章の小気味よさといい、魅力あふれる佳作です。ヘンリー・パーセルのオペラの旋律をそっくり借用した楽章があるのも興味深いことです。
第1楽章はアダージョ(ゆっくりと)、4分の4拍子です。やわかな主題で始まり、やがて主題中第2のモチーフ(3・4小節)に由来する上行のゼクエンツがしだいに力を増してちょっとしたクライマックスを築いたあと、静かに瞑想するように終わります。
第2楽章はアフェット(愛情を持って)と指定されており、4分の3拍子。4小節の前奏に続いて短い主題が2度繰り返して示され、続いて主題の冒頭の反行形で始まる、いくらか速い動きを含む第2の主題を扱って、展開部のような様相になります。やがて主題が再現され、第2の主題を用いた収束に入ります。
第3楽章はカンツォン、4分の4拍子です。3小節の主題がト短調で示されたあと、ニ短調、ハ短調、変ロ長調と移りながら音楽を織り成していきます。最後に再びト短調で主題が奏されると簡潔にしめくくります。
第4楽章はアリアと題され、グラーヴェ(重々しく)と指定されています。一度も倍音系の音を用いず、深ぶかとした音色で歌い上げていく魅惑的な楽章です。リコーダーは最初の8小節の旋律を2度繰り返しますが、1度目はゆっくりした歩みで支えていた通奏低音が、2度目は八分音符の流れるような動きで寄り添います。後半も同じ行き方になっていて、いわば「通奏低音がダブル(double)を担当する」ような趣向になっています。実はこの楽章は「第7番・ハ短調」の第5楽章の場合(そしてこのソナタの第5楽章)と同じく、ヘンリー・パーセルのオペラ「妖精の女王」のアリア(「恋が甘いものなら」"If Love’s sweet Passion")を借用したもので、これが作曲者ロジエによるものか写譜家バベルによるものかは確かなことがわかりません。
第5楽章はプレスト(速く)と指定された短い楽章です。これも前述の通りヘンリー・パーセル「妖精の女王」のアリアを編曲したもので、原曲は、「神秘の精」がシットリと歌う、「私はすべてのものを封じるために来た "I am come to lock all fast" 」です。しかし、ここでは力強く進む低音に乗ってリコーダーがキビキビと、そして高らかに歌上げる音楽になっています。
■リコーダーによる演奏
第1楽章(B2)
第2楽章(C1)
第3楽章(C1)
第4楽章(B2)
第5楽章(C1)
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