RCサクセションからTHE BLUE HEARTSまで。日本のロックシーンがもっとも熱かった【1980年代】を検証!
書籍/雑誌
検証・80年代日本のロック
小島 智 著/アルファベータブックス
10月上旬発売予定
音楽雑誌「ミュージック・ステディ」(※)編集長として、また数々の音楽雑誌の記事執筆やケーブル・テレビの音楽番組の制作などを手がけた著者が、彼らの知られざる姿、逸話、裏話等々を交えながら、日本のロックシーンがもっとも熱かった【1980年代】を検証・考察した一冊。
今回は版元様のご好意により、特別に大江千里、尾崎豊 各氏の本文抜粋を先行してご紹介します!
※「ミュージック・ステディ」とは
日本のロックをメインに取り上げた音楽雑誌。1980 年代初頭に、当初は季刊としてスタート、のちに隔月刊になり、84 年半ばに月刊化する。著者・小島智は85 年初頭から、その2 代目の編集長を休刊まで務める。RC サクセションやハウンド・ドッグ、また佐野元春や浜田省吾、サザンオールスターズといったロックのビッグ・ネームとともに、ムーンライダーズなどの個性派やスターリンなどのパンク系も同列に取り上げた誌面作りが話題を集めた。モッズやシーナ&ザ・ロケッツなどのビート系、尾崎豊や吉川晃司、渡辺美里や中村あゆみら新世代にも早い時期から注目していた。
大江千里
1983年のデビューからヒット曲を連発し、25年近く活躍、しかし、そんな日本での成功を捨て、47歳で単身ニューヨークへ渡り、ジャズピアニストを目指したシンガーソングライターの大江千里。その大江千里がまだデビューから2年後の85年、25歳だったころに著者がインタビューしたときの貴重な話が本書には収められている。
以下、その部分の抜粋――
「実際に顔を合わせた大江は意外にも……、などといっては失礼だが、なかなか気骨のあるアーティストだった。少なくとも筆者がそれまで抱いていた、“トレンディなポップ・チューンを唄うノー天気なシンガー”というイメージの人物とはまったくといっていいほど違っている。この日は終わったばかりの『未成年』のツアーのことが話題の中心になったのだが、こちらの質問に返してきた答はすべてミュージシャンシップを感じさせるものばかりだったのだ。どんなものだったかというと……。
「確かな裏づけがないとどんなステージをやっても人に感動は与えられないから、準備には相当な時間と労力を使わなければならない」、「トラブルで機材が使えなくなったとしても、“生の歌だけでやってやる”ってくらいの気概が必要だ」、「音楽そのものに説得力がないと、その場を盛り上げることはできても聴き手をずっと引っ張ってはいけない」……、なんて具合だ。そして“こんな硬派な発言が聞けるとは意外……”なんて表情をのぞかせた筆者をみとめると、「僕、基本的にかなり臭い人間ですから」などと笑いながら……、なんて感じだったのだ。」
尾崎 豊
同じ年、1983年に、シングル「15の夜」とアルバム『十七歳の地図』で高校在学中にデビューした尾崎豊。当時、10代のカリスマといわれ、圧倒的支持を得た。1992年に26歳で急死。死後30年以上を過ぎても、いまなお幅広く支持されている。そんな尾崎豊が、デビューしたばかりのころ、青山学院の高等部を中退して間もない頃に著者がインタビューをしている。
以下、その部分の抜粋―
「インタヴューの日、尾崎は事務所のスタッフに連れられて、5分ほど遅れて約束した渋谷の喫茶店に姿を現した。風貌は普通でも内面では激しい、暴力的な性格を持つ少年なのかと最初は少し警戒するところもあったのだが、わりに礼儀正しく、それがちょっと意外、というのが率直に抱いた印象だ。そんな気分を胸にして、インタヴューを始める。まず投げかけた質問は、「歌を唄おう、曲を作ろうと思ったきっかけは……」、「レコード会社やプロダクションに認められるまでにしてきた苦労は……」、「意識するアーティストは……」などなどの、デビューしたばかりの新人にとっては定番のようなものだった。
そんな質問に対して彼は言葉を選びながら真摯に応えてくれており、その点も少しばかり意外という印象を受けた。いまだアマチュア臭さが抜けない、もっといえば子供っぽいほど直接的な返答には時おり苦笑も出たが、イノセントだったゆえだろう、しがらみにはとらわれず音楽に伸び伸びと接していることは素直に伝わった。この時の彼はそんなふうにわりと普通の音楽が好きなティーンエイジャーといった雰囲気の人物で、ビッグになったのちに抱くことになる妙な使命感や猜疑心のようなものはほんのカケラほども持っていなかったと思う。
インタヴューはスムーズに終わった。そうして店を出て撮影を、ということになるのだが、フォトグラファーがカメラを向けた時のこと、彼はおもむろにポケットからタバコを取り出して口にくわえたのだ。
それを見て、「未成年なのに、喫煙してる写真を載せていいの?」と同行していた事務所のスタッフに訊くと、「まったくかまわない」との答。あまりにアッサリしていたその返答にはまた少しの苦笑になる。取り繕わずに、ありのままの姿を見せようとしていたのだろう。“そんな方針も悪くないか……”などと感じながら撮影はスタートする。ついでながら記しておくと、尾崎はインタヴュー中にもタバコはかなり吸っており、食欲旺盛な少年らしく、大盛りのスパゲティをあっという間に平らげていた。」
このほかにも、たくさんの80年代アーティストたちの知られざる姿、逸話を多数収録。ぜひチェックを!
検証・80年代日本のロック 目次
1. 独り立ちした日本のロックの象徴/ RCサクセション
2. 思い出深い3バンド/ハウンド・ドッグ、ARB、ザ・モッズ
3. 日本のロックに色を添えた/ストリート・スライダーズ、BOØWY
4. 元気だったビート系とパンク系/ルースターズ、ロッカーズ、シーナ&ザ・ロケッツ、アナーキー、スターリンetc.
5. 圧倒的に人気が高かった二人のシンガー・ソングライター/佐野元春、浜田省吾
6. 80年代に登場した新型ポップ/大沢誉志幸、大江千里etc.
7. 女性によるロックの道筋をつけた/山下久美子・白井貴子
8. 祭り上げられたカリスマ像との葛藤/尾崎豊
9. 尾崎に続いたティーンエイジ・ガール二人/渡辺美里、中村あゆみ
10. 黄色人種独特のチャンキー・ミュージックを世界に発信/ YMO
11. 独自の活動を続けた都会派実力バンド/ PINKほかキリング・タイム、リアル・フィッシュetc.
12. イカ天から登場した本格派/ザ・ブランキー・ジェット・シティ
13. 80年代後半から脚光を浴び始めたヴィジュアル系/ BUCK-TICK、X(X JAPAN)etc.
14. ロックと歌謡曲のはざまで/チェッカーズと吉川晃司etc.
15. バンド・ブームの立役者たち/ザ・ブルーハーツ、アンジー、ジュン・スカイ・ウォーカーズetc.
16. 粘り強く活動を続けたキャリア組・1 /竹田和夫、チャー、カルメン・マキetc.
17. 粘り強く活動を続けたキャリア組・2 /上田正樹とサウス・トゥ・サウス、ウエスト・ロード・ブルース・バンド、ソー・バッド・レビューetc. 出身の、関西ブラック・ミュージック系アーティスト
18. 80年代に支持を得た、ほかのアーティスト何組か
19. 80年代はアンダーグラウンド・シーンからも発信があった
20. 活況を呈したライヴハウス・シーン
21. やはり80年代から盛り上り始めたコンサートや大規模イヴェント
22. 注目を集めた80年代の音楽雑誌
《著者略歴》 小島 智(コジマ サトシ) 東京都出身。明治大学在学中よりミニコミ編集やイヴェント制作にかかわるようになり、卒業後、コンサート制作会社、音楽プロダクションでアーティスト・マネージメントなども体験。80年代半ばに月刊『ミュージック・ステディ』の編集部に参加、のち同誌編集長。80年代後半からはフリーで音楽誌を中心に一般誌、新聞などに音楽評論、アーティスト・インタビュー記事などを執筆。著書に『ロック& ポップスの英語歌詞を読む』(ベレ出版)、『「人間・ビートルズ」入門』(宝島社)、『ビートルズで英会話』(ベストセラーズ)、『アヴァン・ミュージック・イン・ジャパン』『ビートルズの語感 曲づくりにも共通する遊びの発想』(以上、DU BOOKS)など。 |