ピアノ教本/クラシックピアノ

【連載】クラシックに詳しっく! |第3番:クリスマスを迎える前に/第3楽章 すべてを超えた讃美歌

ピアノ教本/クラシックピアノ

讃美歌は、もともと宗教音楽として生まれましたが、いまではその枠を超えて、世界中で親しまれる存在になっています。今回は、そんな“すべてを超えて広がった”讃美歌の魅力をのぞいてみましょう。

第3楽章:すべてを超えた讃美歌

この時期、街角で流れる音楽で欠かせないのが讃美歌。

讃美歌とは、季節を問わず教会の礼拝で歌われる、神をたたえる聖歌を指します。



厳密にいうとカトリックとプロテスタントでは呼び方が異なり、その他の宗派でも様々な呼称があります。稲垣潤一の歌詞にも出て来る「クリスマス・キャロル」や、アメリカでブルースと融合した「ゴスペル」なども讃美歌に含まれます。

ここでは、広い意味での「讃美歌」という呼び方でお話を進めたいと思います。

きよしこの夜

世界中で愛されているこの曲が作られた背景には、“偶然” ともいえるきっかけがありました。

オーストリア・ザルツブルグ近郊の街、オーベルンドルフにある聖ニコラウス教会で働いていたヨゼフ・モールは、1818年のクリスマス・イブの前日、教会のオルガンが壊れていることに気付きました。

音の鳴らないオルガンでは讃美歌の伴奏が出来ません。

困った彼は、ナポレオン戦争後の貧困に苦しむ村人たちを癒すため、1816年頃に書いた詩「Stille Nacht」(静かな夜)」に、ギター伴奏で歌えるメロディを書いてくれるよう、友人であり教会オルガニストや音楽教師を務めていたフランツ・グザヴァー・グルーバーに作曲を依頼しました。

グルーバーは一晩で曲を書き上げ、1818年12月24日のイブのミサでお披露目されました。その後、壊れたオルガンを修理に来たチロル出身の職人が、この曲を故郷に持ち帰り、そこの合唱団がレパートリーに加え演奏旅行を行ったことが、世界中で歌われるきっかけとなりました。

き~よし~こ~のよる~」で始まる日本語詞は、牧師で讃美歌作家の由木康によって書かれ、1909年に出版された讃美歌集に収録されました。その後、音楽の教科書に掲載されるようになり、日本で最もポピュラーな讃美歌となりました。

20年近く続いた小田和正さんの番組『クリスマスの約束』でも毎年歌われていましたが、そんな説明がいらないほど、この時期に欠かせない名曲になっていますね!

実際に聴いてみましょう

オーホーリーナイト

「クラシックに詳しっく」第1番にも登場した、フランスの作曲家 アドルフ・アダンによって1847年に書かれました。

日本でも『さやかに星はきらめき』として歌われている讃美歌です。

実際に聴いてみましょう

もともとの歌詞は上の動画のフランス語で、原題は『Cantique de Noël(クリスマスの賛美歌)』ですが、19世紀の聖職者ジョン・サリバン・ドワイトが英訳した歌詞で世界中に広まり、多くのポップシンガーにも歌われています。

♫マライア・キャリーが歌うオーホーリーナイト

もろびとこぞりて

こちらの曲、讃美歌集には『メサイア』の作曲者であるヘンデルの名前が記載されているものもあるようです。

しかし実際には、アメリカの宗教音楽家で「米国讃美歌の父」とも呼ばれるローウェル・メイスンが、ヘンデルの『メサイア』のいくつかの旋律を基に、1836年に編曲したものとされています。

「もろびとこぞりて」の元ネタ(?)とされる曲もご紹介!

『メサイア』より「慰めよ、わが民よ」(No.2)

次も元ネタ(?)とされる曲。冒頭から「おっ!?」となります! 

 『メサイア』より「門よ、頭をもたげよ」(No.30)

天には栄え

こちらもこの時期を華やかに彩る1曲です。

この曲のメロディは、『結婚行進曲』や『無言歌集』で有名な、ドイツの作曲家フェリックス・メンデルスゾーン の作品に由来しています。

1840年、メンデルスゾーンは、印刷術発明400年記念祝典のために、男声合唱と管弦楽のためのカンタータ『祝典歌』(別名『グーテンベルク・カンタータ』)を作曲しました。その第2曲「祖国よ、お前の場所で」のメロディを引用したのが、この曲です。

さらに、メンデルスゾーンが指揮していた合唱団の一員だったイギリスの音楽家ウィリアム・H・カミングズが、このメロディ(動画1:58~)に、プロテスタントの指導者チャールズ・ウェスレーの歌詞を合わせて歌うことを考案しました。

この曲は、1861年に出版された讃美歌集に収録され、広く普及していきました。

このように、讃美歌にはクラシック音楽にまつわる曲が多くあり、民謡や伝承歌、旋律の借用等がなされた曲も多く含まれています

そして、讃美歌を集めた讃美歌集も複数ありますので、同じ曲でも番号が異なったり、同じメロディを違う歌詞で歌ったり、ということも少なくないようです。

民謡の旋律による、代表的なクリスマス・キャロル

牧人ひつじを(The First Noel)

ヤマザキのクリスマスケーキのCMでも流れているこの曲、元ネタはイングランド西部に400年以上前から伝わっていたメロディだそうです。

「Noel」とは、キリストの生誕=クリスマスという意味で、羊飼いのもとに天使が現れキリストの生誕を告げ、三人の博士が生まれたばかりのキリストのもとを訪ねるという、J.S.バッハの『クリスマス・オラトリオ』の内容をぎゅっと凝縮した歌詞が歌われています。

『クリスマス・オラトリオ』については、「クリスマスを迎える前に」第1楽章をご覧ください。

あめのみつかいの/荒野の果てに(Les Anges dans nos Campagnes)

こちらも、ヤマザキのクリスマスケーキのCMで流れていた曲で、18世紀頃にはフランスで歌われていたメロディです。ラテン語のGloria in excelsis Deo(天におられる神に誉れあれ)が印象的です。

カトリックでは『天の御使いの』、プロテスタントでは『荒野の果てにという日本語の歌詞で歌われています。

もみの木(O Tannenbaum)

「クリスマスを迎える前に」第2楽章で取り上げたシベリウスの作品と同名のこの曲は、400年以上前から伝わるドイツ民謡に、ポツダムの孤児院長アウグスト・ツァルナックが1820年頃に作詞した恋の歌が基になっています。

雪の降る冬でも青々としているもみの木の変わらぬ姿は、どんな時にも勇気と力を与えてくれると歌っており、シベリウスの作品と重なる情景が思い浮かびます。

おめでとう、クリスマス(We Wish You a Merry Christmas)

明石家サンタのベルの音とともに響く「おめでとうクリスマス」、こちらはイングランドに16世紀から伝わる旋律です。

もともとは、家々を訪れてクリスマスの喜びを伝え、お菓子を求めるキャロラーたちによって歌われていたそうで、クリスマス・キャロルとしては珍しく、新年のご挨拶付きです

讃美歌でも、クリスマス・ソングでもないんかい!?…な曲

ジングル・ベル

『きよしこの夜』と並んで、この時期の定番曲といえば『ジングル・ベル』。

1857年、アメリカのボストンで牧師のジェームズ・ピアポイントによって作詞作曲されたこの曲は、「One Horse Open Sleigh(一頭立ての屋根なしソリ)」というタイトルで当初は発表されました。

元の歌詞は、雪の中を一頭立ての馬ゾリで駆け抜ける若者の様子や気持ちを描いたもの。女の子を誘ってソリを走らせるものの、雪の吹き溜まりに突っ込んでひっくり返ってしまい、通りかかった紳士が大笑いして去っていった―― という、雪の日の楽しい情景を歌っています。

ちなみに、ジングル・ベルとは、馬や馬車に付けられた鈴のことで、雨や吹雪で視界が悪いときに、周囲に自分の位置を知らせるためのものでした。

鈴の音がクリスマス気分を盛り上げてくれる1曲ですが、実はこの曲、讃美歌でもクリスマス・ソングとして作られたものでもなく、ルロイ・アンダーソンやモーツァルトの『そりすべり』と同じような、そり遊びの情景を描いた曲だったんですね

現在では、教会という場所を超え、キリスト教という宗派を超え、クラシックや民謡というジャンルを超え、讃美歌はこの時期を明るく華やかにしてくれます。

ピアノ・ソロはもちろん、合唱や器楽でのアンサンブル他、いろんなアレンジによるクリスマス・ソングの楽譜がありますので、ぜひ、この機会に手に取ってご覧いただき、聞き慣れた曲の新たな魅力に出会って頂ければと思います。

■ ピアノソロの楽譜はこちら

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さて、クリスマス音楽特集の最後を飾る第4楽章には、満を持して「アレ」が、そして特別ゲスト!?が登場します
次回もお楽しみに!

この記事を書いた人

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魚と麺類がおいしい福岡に生まれ、高校卒業後に渡欧。1年のドイツ語研修を経て、ウィーンにてピアノ、古楽奏法、音楽学、楽器法、指揮法などを学ぶ。帰国後、大学にて音楽学を専攻、同時に棒振り人生をスタート。指揮、トレーナー、講座、編曲等でクラシック系を中心に音楽と携わり、早〇十年。ニュースはスマホで読みますが、楽譜と書籍は紙印刷を今でもこよなく重宝しています。

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