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讃美歌は、もともと宗教音楽として生まれましたが、いまではその枠を超えて、世界中で親しまれる存在になっています。今回は、そんな“すべてを超えて広がった”讃美歌の魅力をのぞいてみましょう。
連載『クラシックに詳しっく!』って?
普段の生活の中でクラシック音楽が流れているシーンは意外と多く、
ちょっと耳をすませば、驚くほど身近で親しみやすい音楽だったりします。
この連載では、そんな“日常でふと耳にするクラシック=暮らしック音楽”を、
季節やテーマに合わせて詳しく、楽しくご紹介していきます。
前回はこちら ▼
第3楽章:すべてを超えた讃美歌
この時期、街角で流れる音楽で欠かせないのが讃美歌。
讃美歌とは、季節を問わず教会の礼拝で歌われる、神をたたえる聖歌を指します。

厳密にいうとカトリックとプロテスタントでは呼び方が異なり、その他の宗派でも様々な呼称があります。稲垣潤一の歌詞にも出て来る「クリスマス・キャロル」や、アメリカでブルースと融合した「ゴスペル」なども讃美歌に含まれます。
ここでは、広い意味での「讃美歌」という呼び方でお話を進めたいと思います。
世界中で愛されているこの曲が作られた背景には、“偶然” ともいえるきっかけがありました。
オーストリア・ザルツブルグ近郊の街、オーベルンドルフにある聖ニコラウス教会で働いていたヨゼフ・モールは、1818年のクリスマス・イブの前日、教会のオルガンが壊れていることに気付きました。
音の鳴らないオルガンでは讃美歌の伴奏が出来ません。
困った彼は、ナポレオン戦争後の貧困に苦しむ村人たちを癒すため、1816年頃に書いた詩「Stille Nacht」(静かな夜)」に、ギター伴奏で歌えるメロディを書いてくれるよう、友人であり教会オルガニストや音楽教師を務めていたフランツ・グザヴァー・グルーバーに作曲を依頼しました。
グルーバーは一晩で曲を書き上げ、1818年12月24日のイブのミサでお披露目されました。その後、壊れたオルガンを修理に来たチロル出身の職人が、この曲を故郷に持ち帰り、そこの合唱団がレパートリーに加え演奏旅行を行ったことが、世界中で歌われるきっかけとなりました。
「き~よし~こ~のよる~」で始まる日本語詞は、牧師で讃美歌作家の由木康によって書かれ、1909年に出版された讃美歌集に収録されました。その後、音楽の教科書に掲載されるようになり、日本で最もポピュラーな讃美歌となりました。
20年近く続いた小田和正さんの番組『クリスマスの約束』でも毎年歌われていましたが、そんな説明がいらないほど、この時期に欠かせない名曲になっていますね!
♫ 実際に聴いてみましょう
「クラシックに詳しっく」第1番にも登場した、フランスの作曲家 アドルフ・アダンによって1847年に書かれました。
日本でも『さやかに星はきらめき』として歌われている讃美歌です。
♫実際に聴いてみましょう
もともとの歌詞は上の動画のフランス語で、原題は『Cantique de Noël(クリスマスの賛美歌)』ですが、19世紀の聖職者ジョン・サリバン・ドワイトが英訳した歌詞で世界中に広まり、多くのポップシンガーにも歌われています。
♫マライア・キャリーが歌うオーホーリーナイト
こちらの曲、讃美歌集には『メサイア』の作曲者であるヘンデルの名前が記載されているものもあるようです。
しかし実際には、アメリカの宗教音楽家で「米国讃美歌の父」とも呼ばれるローウェル・メイスンが、ヘンデルの『メサイア』のいくつかの旋律を基に、1836年に編曲したものとされています。
♫実際に聴いてみましょう
「もろびとこぞりて」の元ネタ(?)とされる曲もご紹介!
次も元ネタ(?)とされる曲。冒頭から「おっ!?」となります!
こちらもこの時期を華やかに彩る1曲です。
♫実際に聴いてみましょう
この曲のメロディは、『結婚行進曲』や『無言歌集』で有名な、ドイツの作曲家フェリックス・メンデルスゾーン の作品に由来しています。
1840年、メンデルスゾーンは、印刷術発明400年記念祝典のために、男声合唱と管弦楽のためのカンタータ『祝典歌』(別名『グーテンベルク・カンタータ』)を作曲しました。その第2曲「祖国よ、お前の場所で」のメロディを引用したのが、この曲です。
さらに、メンデルスゾーンが指揮していた合唱団の一員だったイギリスの音楽家ウィリアム・H・カミングズが、このメロディ(動画1:58~)に、プロテスタントの指導者チャールズ・ウェスレーの歌詞を合わせて歌うことを考案しました。
この曲は、1861年に出版された讃美歌集に収録され、広く普及していきました。
このように、讃美歌にはクラシック音楽にまつわる曲が多くあり、民謡や伝承歌、旋律の借用等がなされた曲も多く含まれています。
そして、讃美歌を集めた讃美歌集も複数ありますので、同じ曲でも番号が異なったり、同じメロディを違う歌詞で歌ったり、ということも少なくないようです。
民謡の旋律による、代表的なクリスマス・キャロル
ヤマザキのクリスマスケーキのCMでも流れているこの曲、元ネタはイングランド西部に400年以上前から伝わっていたメロディだそうです。
「Noel」とは、キリストの生誕=クリスマスという意味で、羊飼いのもとに天使が現れキリストの生誕を告げ、三人の博士が生まれたばかりのキリストのもとを訪ねるという、J.S.バッハの『クリスマス・オラトリオ』の内容をぎゅっと凝縮した歌詞が歌われています。
『クリスマス・オラトリオ』については、「クリスマスを迎える前に」第1楽章をご覧ください。
♫実際に聴いてみましょう
こちらも、ヤマザキのクリスマスケーキのCMで流れていた曲で、18世紀頃にはフランスで歌われていたメロディです。ラテン語のGloria in excelsis Deo(天におられる神に誉れあれ)が印象的です。
カトリックでは『天の御使いの』、プロテスタントでは『荒野の果てに』という日本語の歌詞で歌われています。
♫実際に聴いてみましょう
「クリスマスを迎える前に」第2楽章で取り上げたシベリウスの作品と同名のこの曲は、400年以上前から伝わるドイツ民謡に、ポツダムの孤児院長アウグスト・ツァルナックが1820年頃に作詞した恋の歌が基になっています。
雪の降る冬でも青々としているもみの木の変わらぬ姿は、どんな時にも勇気と力を与えてくれると歌っており、シベリウスの作品と重なる情景が思い浮かびます。
♫実際に聴いてみましょう
明石家サンタのベルの音とともに響く「おめでとうクリスマス」、こちらはイングランドに16世紀から伝わる旋律です。
もともとは、家々を訪れてクリスマスの喜びを伝え、お菓子を求めるキャロラーたちによって歌われていたそうで、クリスマス・キャロルとしては珍しく、新年のご挨拶付きです
♫実際に聴いてみましょう
讃美歌でも、クリスマス・ソングでもないんかい!?…な曲
『きよしこの夜』と並んで、この時期の定番曲といえば『ジングル・ベル』。
1857年、アメリカのボストンで牧師のジェームズ・ピアポイントによって作詞作曲されたこの曲は、「One Horse Open Sleigh(一頭立ての屋根なしソリ)」というタイトルで当初は発表されました。
元の歌詞は、雪の中を一頭立ての馬ゾリで駆け抜ける若者の様子や気持ちを描いたもの。女の子を誘ってソリを走らせるものの、雪の吹き溜まりに突っ込んでひっくり返ってしまい、通りかかった紳士が大笑いして去っていった―― という、雪の日の楽しい情景を歌っています。
ちなみに、ジングル・ベルとは、馬や馬車に付けられた鈴のことで、雨や吹雪で視界が悪いときに、周囲に自分の位置を知らせるためのものでした。
鈴の音がクリスマス気分を盛り上げてくれる1曲ですが、実はこの曲、讃美歌でもクリスマス・ソングとして作られたものでもなく、ルロイ・アンダーソンやモーツァルトの『そりすべり』と同じような、そり遊びの情景を描いた曲だったんですね。
♫実際に聴いてみましょう
現在では、教会という場所を超え、キリスト教という宗派を超え、クラシックや民謡というジャンルを超え、讃美歌はこの時期を明るく華やかにしてくれます。
ピアノ・ソロはもちろん、合唱や器楽でのアンサンブル他、いろんなアレンジによるクリスマス・ソングの楽譜がありますので、ぜひ、この機会に手に取ってご覧いただき、聞き慣れた曲の新たな魅力に出会って頂ければと思います。
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さて、クリスマス音楽特集の最後を飾る第4楽章には、満を持して「アレ」が、そして特別ゲスト!?が登場します
次回もお楽しみに!

●この記事を書いた人
もり
魚と麺類がおいしい福岡に生まれ、高校卒業後に渡欧。1年のドイツ語研修を経て、ウィーンにてピアノ、古楽奏法、音楽学、楽器法、指揮法などを学ぶ。帰国後、大学にて音楽学を専攻、同時に棒振り人生をスタート。指揮、トレーナー、講座、編曲等でクラシック系を中心に音楽と携わり、早〇十年。ニュースはスマホで読みますが、楽譜と書籍は紙印刷を今でもこよなく重宝しています。

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クリスマスが近づくと、劇場やホールでは子どもたちの笑い声が響き、街には心躍るメロディがあふれます。今週は、そんな冬の日を彩る「キラキラサウンド」の世界へご案内します。
『クラシックに詳しっく!』って?
普段の生活の中でクラシック音楽が流れているシーンは意外と多く、
ちょっと耳をすませば、驚くほど身近で親しみやすい音楽だったりします。
この連載では、そんな“日常でふと耳にするクラシック=暮らしック音楽”を、
季節やテーマに合わせて楽しくご紹介していきます。
前回はこちら ▼
第2楽章:雪の日のキラキラサウンド
この時期、お子さん向けに上演されるのが、チャイコフスキー作曲のバレエ『くるみ割り人形』。
クリスマス・イブの日のお話しで、おじいちゃんからくるみ割り人形をプレゼントされた少女が、人形を助けネズミと戦い、呪いが解けた王子と結婚するという楽しいファンタジーが、華やかで心浮きたつような音楽で紡がれています。
全曲通しで100分程度の作品ですが、チャイコフスキー自身が20分程度にまとめた、美しいメロディてんこ盛りの組曲は演奏頻度も多く、耳にされたことがあるかと思います。
当時開発されたばかりの楽器、チェレスタをいち早く取り入れた「金平糖の踊り」
速いテンポで踊られるウクライナ地方の踊り「トレパーク」
ソフトバンクのCMでもお馴染みの「葦笛の踊り」
美しいハープの前奏から始まる「花のワルツ」
■ 楽譜はこちら

ピアノ連弾 チャイコフスキー 組曲 くるみ割り人形 Op.71a
(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)
■ 楽譜はこちら

ポケットスコア チャイコフスキー:組曲《くるみ割り人形》作品71a
(全音楽譜出版社)
チャイコフスキーには、ひと月ごとのロシアの情景を詠んだ詩に作曲した、全12曲のピアノ曲集『四季』もあり、中でも11月の『トロイカ』はよく弾かれる作品です。
「トロイカ」とは、ロシアの3頭立ての馬ソリのことで、郵便馬車などとしてロシアでは日常的に活躍していました。その情景が思い浮かぶような、リズミックな作品です。
■ 楽譜はこちら

全音ピアノライブラリー チャイコフスキー 四季
(全音楽譜出版社)
ソリつながりで登場するのは、アメリカの作曲家、ルロイ・アンダーソンの『そり滑り』。
ルロイ・アンダーソンは20世紀に活躍した、アメリカ・ポップスクラシックの巨匠で、軽妙洒脱、遊び心に溢れた小品を数多く残しています。
運動会のBGMとして定番の「トランペット吹きの休日」
弦楽の速弾きが見事な「フィドル・ファドル」
イオングループのお掃除時間のBGMでも使われている「シンコペイテッド・クロック」
■ 楽譜はこちら

ピアノで弾くクラシック・アーティスト ルロイ・アンダーソン/ジョージ・ガーシュウィン/ジョン・フィリップ・スーザ
(ケイ・エム・ピー)
モーツァルトも、アンダーソンと同名の『そりすべり』を書いています。
こちらは、『3つのドイツ舞曲K.605』の3曲目として収められており、鈴とポストホルンが賑やかに奏でられます。
■ 楽譜はこちら

ヤマハピアノライブラリー ピアノ連弾曲集2 CD付
(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)
オリジナルはオーケストラ版ですが、こちらの楽譜はピアノ連弾版です。
北欧フィンランドの作曲家シベリウスの『もみの木』も、この時期にぴったりのピアノ小品です。
この曲は、松や白樺など、フィンランドを象徴する樹木をテーマに書いた作品をまとめた『5つの小品(樹の組曲)』作品75の5曲目にあたります。
木々を題材に、自然への畏敬とフィンランド人の心の情景を描いた曲集で、シベリウス48歳のころに書かれました。 風雪に耐え立つ樹の力強さや美しさを感じられる作品です。
■ 楽譜はこちら

シベリウス・ピアノ名曲集
(ドレミ楽譜出版社)
『5つの小品』の他、作曲者自身のピアノソロ編曲版による『フィンランディア』や『悲しきワルツ』他が収録された、シベリウスを知るのにおススメの1冊

シベリウス ピアノアルバム
(全音楽譜出版社)
日本シベリウス協会の最高顧問を務めるピアニスト館野泉さんによる編集で、詳細な解説も読みごたえ充分です
ピアノで奏でるクリスマス曲、最後は「ピアノの魔術師」の異名を持つ、フランツ・リストの『クリスマス・ツリー』です。
リストの作品と言えば超絶技巧なイメージですが、これはリストが孫娘のために書いた弾きやすい作品集で、古い民謡や教会の聖歌などが引用されています。
3曲目の『飼い葉桶のそばの羊飼いたち』、4曲目の『誠実な人々よ、来たれ』では、どこかで聞いたことのあるクリスマス・キャロルが聞こえてきます。
3曲目『飼い葉桶のそばの羊飼いたち』
4曲目の『誠実な人々よ、来たれ 』(神の御子は今宵しも)
■ 楽譜はこちら

リスト クリスマス・ツリー
(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)
さて、クリスマスを迎える12月の「クラシックに詳しっく」。
次回はこの時期に欠かせない、讃美歌の数々をご紹介したいと思います。どうぞお楽しみに!

●この記事を書いた人
もり
魚と麺類がおいしい福岡に生まれ、高校卒業後に渡欧。1年のドイツ語研修を経て、ウィーンにてピアノ、古楽奏法、音楽学、楽器法、指揮法などを学ぶ。帰国後、大学にて音楽学を専攻、同時に棒振り人生をスタート。指揮、トレーナー、講座、編曲等でクラシック系を中心に音楽と携わり、早〇十年。ニュースはスマホで読みますが、楽譜と書籍は紙印刷を今でもこよなく重宝しています。
昭和100年の2025年、関西では万博や阪神タイガースの優勝で盛り上がった一年も、早いもので残すところわずかとなりました。
あちらこちらでイルミネーションが煌めき、心浮き立つこの季節、街角でも様々なクラシック音楽が流れています。
今回はこの季節を彩る素敵な音楽をご紹介していきたいと思います。
『クラシックに詳しっく!』って?
普段の生活の中でクラシック音楽が流れているシーンは意外と多く、
ちょっと耳をすませば、驚くほど身近で親しみやすい音楽だったりします。
この連載では、そんな“日常でふと耳にするクラシック=暮らしック音楽”を、
季節やテーマに合わせて楽しくご紹介していきます。
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第1楽章:クリスマスを祝う宗教曲

クリスマスは、「キリストのミサ」という意味であり、言わずと知れたイエス・キリストの降誕を祝う日です。
11月30日に最も近い日曜日から約4週間、キリストの降誕を待ち望む待降節(たいこうせつ)を過ごし、その間にさまざまな行事やミサが行われ、クリスマス当日を迎えます。
まず初めに、キリスト教文化圏のお祝いで奏でられる音楽をご紹介したいと思います。
宗教的なイベントを飾る音楽として、ミサ曲などの宗教曲がありますが、この時期の定番といえば、ヘンデルの『メサイア』(日本語で救世主の意味)とJ.S.バッハの『クリスマス・オラトリオ』が挙げられます。
ヘンデルとバッハは、同じ1685年に、ハレとアイゼナハという、距離にして150kmほど、東京~軽井沢ぐらいしか離れていないドイツの街で生まれました。
ヘンデルとバッハは同じ1685年にドイツで生まれましたが、その生涯は対照的でした。
ヘンデルはイタリアに留学し、ドイツ・ハノーファーで宮廷楽長を務めた後、ロンドンへ渡ります。そこでオペラ作曲家・興行主として成功し、最終的にはイギリスに帰化した国際派の作曲家でした。
一方のバッハは、ライプツィヒをはじめとするドイツ東部を拠点に活動した、教会音楽家としての色が濃い人物です。ミサで演奏されるカンタータや、オルガンを中心とした多数の鍵盤作品を残しました。
音楽的にも、旋律美や劇性に富んだ音楽を生んだヘンデルと、対位法などの音楽語法を駆使したバッハとは対照的です。
クリスマス時期定番の2曲も、その内容は大きく異なります。
聖書などの言葉を用いて、宗教的なストーリーを描く「オラトリオ」という音楽スタイルで書かれていますが、バッハが聖書に書かれている言葉やコラールを重宝する宗教作品といった印象に比べ、ヘンデルはアリアや音楽描写を多用したオペラのような作品になっています。
ヘンデルの『メサイア』は、キリスト生誕の預言と降誕から始まり、受難を経て復活し、信仰が人々に広まっていく様子を駆け足で描いています。華やかな「ハレルヤコーラス」を始めとして、劇的華麗に音が紡がれていきます。
「ハレルヤ・コーラス」は1:46:00~
注目して聴いてみてください!
■ 楽譜はこちら

ヘンデル:メサイア(別冊解説付) 混声合唱
(全音楽譜出版社)
■ 楽譜はこちら

No.142.ヘンデル メサイア
(日本楽譜出版社)
これに対して、J.S.バッハの『クリスマス・オラトリオ』は、6つのカンタータによって構成されており、イエスの誕生と羊飼いたちとの出会い、東方の博士たちの来訪と、キリストの誕生前後にスポットが当てられています。
■ 楽譜はこちら

GYA00074631 バッハ J. S. : クリスマス・オラトリオ BWV 248
(ベーレンライター社)
こちらは宗教音楽ではありませんが、バッハ、ヘンデルの少し先輩にあたるコレッリの『クリスマス協奏曲』(合奏協奏曲ト短調作品6-8)も、この時期に多く演奏される曲の一つです。
イタリア北東部の町に生まれたコレッリはヴァイオリニストとしても著名で、パリ、ミュンヘン等でも活躍しました。合奏協奏曲とは、複数のソロ楽器を伴う協奏曲のことで、コレッリ、ヴィヴァルディ、ヘンデル他、バロック時代に多く書かれました。
コレッリは、この曲の最終楽章のパストラールに「クリスマスの夜のために作曲」と記しており、ゆったりとしたテンポで、クリスマスの平安と喜びを歌っています。
「パストラール」とは牧歌という意味で、キリストの生誕を祝って羊飼いが吹いた笛の音にちなんだ楽曲を指します。
9:31~がパストラールです
■ 楽譜はこちら

No.168.コレルリ 合奏協奏曲 クリスマス協奏曲
(日本楽譜出版社)
今回はちょっとマジメな音楽を紹介しましたが、次回の第2楽章では、雪の日にぴったりなキラキラとした「冬の音の世界」をテーマに、チャイコフスキーやルロイ・アンダーソンの名曲たちをご紹介します。どうぞお楽しみに!

●この記事を書いた人
もり
魚と麺類がおいしい福岡に生まれ、高校卒業後に渡欧。1年のドイツ語研修を経て、ウィーンにてピアノ、古楽奏法、音楽学、楽器法、指揮法などを学ぶ。帰国後、大学にて音楽学を専攻、同時に棒振り人生をスタート。指揮、トレーナー、講座、編曲等でクラシック系を中心に音楽と携わり、早〇十年。ニュースはスマホで読みますが、楽譜と書籍は紙印刷を今でもこよなく重宝しています。
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特集:さいきん話題の「大人のピアノ」テキストをチェック! テキストや曲集、書籍まで、最近のトレンドをご紹介♪
連載:レッスンのお悩み、一緒に考えます!聞いて!まるみえ先生(大人の方の指導に不安があります…)
巻末:新刊&おすすめ本コーナー
普段の生活の中で“クラシック音楽”が流れているシーンは多く、ちょっと耳をすませば、意外にとっつきやすく身近な音楽だったりします。今回も、そんな生活の中で聞こえる“暮らしック音楽”をご紹介していきたいと思います。
前回はこちら ▼
第1楽章:モーツァルトと洗濯機

前回のモーツァルトつながりでご紹介するのは、日〇の洗濯機から聞こえる洗濯開始のメロディ。
こちらはピアノ・ソナタ第11番(K331)の第1楽章冒頭の部分です。
洗濯機バージョンは速いテンポですが、本来のピアノでの演奏はゆったりとしたテンポで、可愛らしいメロディに癒される曲です。
この第1楽章は、『きらきら星変奏曲』と同じ、“変奏曲”というスタイルで書かれています。
テーマ(冒頭部分)のメロディを、テンポや曲想、拍子等でお色直しをしながら紡がれる変奏曲は、ピアニスト兼作曲家のモーツァルトにとって腕の見せ所で、数多くの変奏曲が遺されています。
この曲の第3楽章として書かれたのが、有名な「トルコ行進曲」で、こちらは快活な行進曲となっています。
■ 楽譜はこちら

全音ピアノライブラリー
モーツァルト:ピアノ・ソナタ イ長調 KV331 [トルコ行進曲付き]
(全音楽譜出版社)
左手で奏でられるリズムと音色は、当時流行していたトルコ軍楽隊を模したもので、楽譜にも「Alla Turca.トルコ風に」と記されています。
人気作曲家の常として、流行に敏感なモーツァルトは、この曲以外にもトルコ・サウンドを用いた作品を遺していますが、またそれは別の機会にご紹介できればと思います。
モーツァルトの脳内イメージを再現したかのような(!?)--
トルコの民族楽器による色彩豊かな演奏を、ぜひお愉しみください。
また、他メーカーの洗濯機からは、同じくモーツァルトのピアノ・ソナタ第16番(K545)の第1楽章が聞こえてきます。
ソナチネアルバムにも収録されている曲なので、「弾いたことある!」という方が多いかもしれません
■ 楽譜はこちら

全音ピアノライブラリー
ソナチネアルバム 第1巻 (今井顕 校訂)
(全音楽譜出版社)
こちらは、いわゆる原典版に近い状態で、後付けされたスラーなどのアーティキュレーションが排除された楽譜です
■ 楽譜はこちら

こどものピアノレッスン
新こどものソナチネアルバム
(全音楽譜出版社)
子どものレッスンにピッタリ!
簡単な解説は、想像力豊かな演奏のヒントになります。
番外編として、ノルウェーの作曲家グリーグによる2台ピアノ版をご紹介します。
モーツァルトの原曲に、グリーグが第2ピアノを追加したアレンジ物で、ばっちりメイクを施したモーツァルトを聴くことが出来ます。
■ 楽譜はこちら

全音ピアノライブラリー
モーツァルト=グリーグ 2台のピアノのためのソナタと幻想曲
(全音楽譜出版社)
ここで豆知識を♪
モーツァルトの膨大な作品からお気に入りを探すのは大変!
いいなと思ったら、K〇〇〇の番号を覚えましょう。
これは世界共通のモーツァルトの作品目録番号で、モーツァルトの作品を書かれた順番に整理した音楽学者の名前をとってケッヘル番号と言われている物です。
この番号さえあれば、協奏曲の何番だったか、何長調だったか等覚えなくても大丈夫です。
因みに、J.S.バッハはBWV、ヘンデルはHWV、シューベルトはDの作品目録番号が付いています。
第2楽章:バッハといえば、コーヒーと電気ポット!?

残暑が終わり、肌寒くなってきたこの時期、ホットな飲み物は心安らぐアイテム。
そんな時、活躍してくれる〇印の電気ポットから聞こえる『メヌエット』BWV Anh114(J.S.バッハ『アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳」より)が、お湯が沸いたことをお知らせしてくれます。
この作品、実はJ.S.バッハのオリジナルではなく、J.S.バッハと同時代のドイツの作曲家ペッツォルトの作品であることが、研究によって判明しました。
アンナ・マグダレーナ・バッハは、バッハの2番目の妻(先妻とは死別)で、二人の間には13人の子供が生まれました。
アンナ自身もソプラノ歌手で、夫の書稿や筆写譜の作成を手伝ったそうです。
そんな愛妻にバッハが贈ったのがこの音楽帳で、J.S.バッハ自身の作品とともに、息子カール・フィリップ・エマヌエル・バッハやフランスで活躍していたフランソワ・クープランの作品等が収められています。
■ 楽譜はこちら

ウィーン原典版150 アンナ・マグダレーナ・バッハのクラヴィーア小曲集
(音楽之友社)
眉間にしわを寄せたような肖像画が印象的なJ.S.バッハですが、ドイツ語の「BACH」は、日本語に訳すと「小川」という意味です。
これをもじって、かのベートーヴェンが「彼はBACH(小川)ではなく、MEER(大海)だ」と称賛したそうですが、膨大な宗教曲を遺した偉大な作曲家の、アットホームな作品集は、やさしいせせらぎを感じさせてくれます。
また、J.S.バッハは大のコーヒー好きだったそうで、父と娘がコーヒーについて争い、
「コーヒーがなきゃ私は生きていけないわ!」
「猫がネズミ捕りを止められないように、娘はコーヒーを止められない」
と歌う『コーヒー・カンタータ(おしゃべりはやめて、お静かに)』という喜劇的作品まで作っています。
J.S.バッハが現代に生きていたら、大好きなコーヒーをいつでも飲めるように、電気ポットは欠かせない存在になっていたことでしょう。
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トートバッグ コーヒーを淹れるバッハくん ナチュラル
(株式会社50)
第3楽章:あたたかさをお届けするクラシック ~ 給湯器&ファンヒーター ~
帰宅し、ほっと一息のタイミングで〇ーリツ給湯器から聞こえるお湯張り終了の音楽は、ドイツ人の作曲家テオドール・エステンが作曲した『人形の夢と目覚め』です。
この曲は全6曲からなる小品集『子供の情景』に含まれる3分程度の小品で、「子守唄」「人形の夢」「人形の踊り」の3部構成になっています。
お湯張り終了のメロディは、第2部の「人形の夢」冒頭部分が使われています。
モーツァルトやJ.S.バッハと比べるとネームバリューの低いエステンですが、ピアノ発表会の定番曲『アルプスの夕映え』や『アルプスの鐘』などを遺しており、ピアノ教師として名高かったエステンの一面がうかがえます。
■ 楽譜はこちら

全音ピアノライブラリー 全音ピアノ名曲選集 下巻
(全音楽譜出版社)
続いて、寒い部屋を暖めてくれるコロ〇の石油ファンヒータから聞こえるのは『エリーゼのために』。
クラシック界の偏屈おやじ代表、ベートーヴェンが恋人に宛てたラブレターともいえる音楽が、「灯油を補充してくださいね」、と優しく語りかけてくれます。

苦虫をつぶしたような肖像画のベートーヴェンですが、いくつも恋をしました。
生涯独身だったベートーヴェンにとって、それは秘めた恋だったのかもしれません。
「エリーゼ」が誰を指すのか、諸説ありますが、この曲はベートーヴェンの生前に発表されることなく、死後40年経った1867年に、音楽学者ノールによって発見されました。
■ 楽譜はこちら

全音ピアノピース002 エリーゼのために(WoO 59)/ベートーベン
(全音楽譜出版社)
第4楽章:しばしの間、音楽をお楽しみください ~電話の保留音~
そして、現在では少なくなった固定電話の保留音にも、多くのクラシック音楽が用いられてきました。
いくつか例を挙げると…
電話の保留音①
カノン(パッヘルベル作曲)
結婚式等でも耳なじみの、ドイツの作曲家パッヘルベルによるカノン(カノンとは、「カエルの歌が~」の輪唱形式で演奏される形式の名称です)。
原曲はこのあと、イギリスの舞踏音楽ジークが続いて演奏されます。
それぞれの声部の重なりが美しく、いろんなアレンジで演奏されている作品です。
■ 楽譜はこちら

ピアノソロ 中・上級
いろいろなアレンジを楽しむ パッヘルベルのカノン
(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス )

いろんなアレンジで弾く
新・ピアノ名曲ピース 23 カノン
(デプロMP)
電話の保留音②
愛の挨拶(エルガー作曲)
こちらも結婚式でよく弾かれる作品。イギリスの作曲家エルガーが愛妻との婚約記念に贈った作品で、愛らしい旋律が魅力的です。
電話の保留音③
鱒(シューベルト作曲)
■ 楽譜はこちら

声楽ライブラリー
シューベルト歌曲集1(中声)
(全音楽譜出版社)
シューベルトは、31年という短い生涯で600以上の歌曲を遺し、「歌曲の王」と呼ばれています。
この歌曲では、釣り人が策略を使って鱒を釣り上げる様子が描かれていますが、作曲されなかった原詩(シューバルト作詞)では続きがあり、「男性はこうやって女性をたぶらかそうとするから気を付けて」と言う内容になっています。振り込め詐欺に気を付けて!
このメロディによる変奏曲を第4楽章に配した、作曲者自身によるピアノ五重奏曲『鱒』も有名です。
■ 楽譜はこちら

(137)シューベルト ピアノ五重奏曲 イ長調 鱒
(日本楽譜出版社)
電話の保留音④
グリーンスリーヴス(イングランド民謡)
イギリスの作曲家ヴォーン・ウィリアムズがこの旋律を用い、『グリーンスリーヴスによる幻想曲』を書いたことでも有名になった、イングランド民謡の代表曲ひとつです。
■ 楽譜はこちら

(384)ヴォーン=ウイリアムズ グリーンスリーヴズによる幻想曲
(日本楽譜出版社)
電話の保留音⑤
愛のワルツ(ブラームス作曲)
ピアノ連弾用に30代のブラームスが作曲した『16のワルツ』の第15番目のこの作品は、出版当時から人気が高く、ブラームス本人によって独奏用に編曲もされました。
■ 楽譜はこちら

全音ピアノライブラリー
ブラームス ワルツ集 作品39(連弾)
(全音楽譜出版社)
この当時のブラームス、なかなかのイケメンで、晩年のひげもじゃな雰囲気とは別人のようです。
ちなみに、ブラームスと発明王エジソンは懇意の仲だったそうで、新しいテクノロジーに興味津々のブラームスは、エジソンの発明した蓄音機で自作のピアノ曲を録音しており、これがクラシック音楽の録音第一号と言われています。
レコード、CDへと続く音楽録音のパイオニアに、ブラームスがいたなんて意外ですね。
他にも、電話の保留音には色々なクラシック音楽が使われています。
お待たせタイムの音楽なので、運動会やスーパーマーケットのBGMのようなアップテンポの曲ではなく、比較的ゆっくりのテンポで穏やかな曲想のラインナップですね。
エピローグ
メーカーによって違いはありますが、家電製品から聞こえるクラシック音楽は意外とたくさんあります。
最近では、シンプルな電子音や効果音のようなシグナルが主流となってきたかに思えますが、サラッと聞こえるクラシック音楽の1フレーズが、ホットでほっとするひと時を演出してくれます。
何気なく聞こえてくる音楽に耳を傾け、興味をもっていただければ、新しい素敵な出会いが待っているかもしれません。そして少しだけ足を進めて、ネットで検索してみたり、楽譜を開いてみたりしてはいかがでしょうか?
楽譜は音楽にとってレシピのようなものです。
同じレシピでも料理を作る人によって味が異なるように、同じ楽譜でも、演奏者によって聴こえてくる音楽は異なります。
レシピを知れば料理に興味が持てるように、楽譜を見れば、その曲の隠し味が聞こえてくるかもしれません。楽器が得意でない方も、楽譜に馴染みがない方も、簡単な楽譜の読み方をマスターし、素敵な出会いや楽しい発見を楽しんで頂ければと思います。
それでは、身も心も温かい空間で、素敵な芸術の秋をお過ごしください。

●この記事を書いた人
もり
魚と麺類がおいしい福岡に生まれ、高校卒業後に渡欧。1年のドイツ語研修を経て、ウィーンにてピアノ、古楽奏法、音楽学、楽器法、指揮法などを学ぶ。帰国後、大学にて音楽学を専攻、同時に棒振り人生をスタート。指揮、トレーナー、講座、編曲等でクラシック系を中心に音楽と携わり、早〇十年。ニュースはスマホで読みますが、楽譜と書籍は紙印刷を今でもこよなく重宝しています。
2025年10月号をもって休刊となった「ムジカノーヴァ」が、「ムジカノーヴァONLINE」として生まれ変わりました!

版元である音楽之友社の出版物の情報のほか、公開講座&イベント情報や読みものページなどが閲覧できます。特に「楽譜&動画」コーナーは、楽譜の情報に加えて関連動画を視聴できるのがイイ!スキマ時間にあれこれ見て楽しめそうです。ぜひご覧くださいね!
ムジカノーヴァONLINE様からのメッセ―ジ:
ピアノを学ぶ・教える・楽しむ人の情報メディア「ムジカノーヴァONLINE」が、2025年10月20日にオープンしました。 『ムジカノーヴァ』は、2025年10月号をもって月刊誌としての刊行を終了しました。 今後はONTOMO MOOK「ムジカノーヴァ・シリーズ」と「ムジカノーヴァONLINE」という紙とWebの両輪で、「ピアノを学ぶ・教える・楽しむ人」に役立つ情報を提供していきます。
「ムジカノーヴァONLINE」では、読みものや公開講座・イベント情報、新刊情報などを随時更新、ピアノ指導者・学習者の方々が気軽に立ち寄り、また集える場として展開していきます。 ONTOMO MOOK「ムジカノーヴァ・シリーズ」の刊行予定も順次更新します。 ぜひ会員登録(無料)していただけますようお願いいたします。
https://musicanova.ontomo-mag.com/
バッハ 無伴奏チェロ組曲
秘められた〈物語〉を読む
スティーブン・イッサーリス 著/松田 健 訳
アルテスパブリッシング 2,750円
ISBN:9784865593235
“音楽の父” こと、J.S.バッハの代表曲のひとつ、「無伴奏チェロ組曲(BWV1007~1012)」。曲名だとピンとこない方も、曲を聴けば、ああ、あの曲ね! となる方が多いのではないでしょうか。
さて、この「無伴奏チェロ組曲」、何やらさまざまな謎があるそうなんですが、このたび、その謎を解き明かす本が登場です!
著者は、当代最高のチェリスト(チェロ奏者)との呼び声も高い、スティーブン・イッサーリス氏。至高のチェリストが至高のチェロ作品の謎を解き明かしていく・・・めっちゃワクワクしませんか? そこで今回は、本書の翻訳を手がけられた松田健さんに、本書の内容・読みどころについてお聞きしました!
―― そもそも、「バッハ 無伴奏チェロ組曲」とはどのような曲ですか?
「バッハ 無伴奏チェロ組曲」は独奏チェロのための曲集で、チェロの最重要レパートリーのひとつです。正確には6曲からなる組曲が6つ含まれた、組曲集です。バッハ自身の手稿が現存しておらず、さまざまな謎につつまれています。バッハ没後は長い間、チェロの教則本程度にしか認識されず、あまり日の目を見なかったのですが、20世紀に巨匠カザルスが世界に紹介し、広く知られるようになりました。
著者のイッサーリス氏本人による演奏動画がこちら:
―― 著者のイッサーリス氏はどんな人で、今回の本はどんな内容ですか?
著者のスティーヴン・イッサーリスはイギリスが誇る世界屈指のチェロ奏者です。演奏面や音量面で有利なスティール弦を使わず、あえてガット弦を使うことで独特の音色を生み出します。
また、文筆家としても成功しており、児童書などで高い評価を受けています。本書では、この組曲集の成立背景についての説明があり、またバッハがそれを作曲した意図について、著者の直観にもとづく大胆な仮説が述べられています。
―― 本書の推しポイント(読みどころ)は? 秘められた物語って何ですか?
バッハの解説本というと難解そうなイメージがありますが、実はとても親しみやすいのが本書いちばんの推しポです。一貫して読者に歩み寄る姿勢で書かれているのです。 …「秘められた物語」とは何かですって? それは秘密です(笑)。でもこれは著者が長年この組曲集を演奏しながらはぐくんできた仮説であり、確たるエビデンスがないにもかかわらず、ふしぎと説得力があるのです。
本書のはじめの部分が試し読みできます!
親しみやすい語り口にぜひ触れてみてくださいね♪
―― どんな人に向けて読んでもらいたいですか? また、これからこの本を手に取る方へメッセージをお願いします。
バッハ、チェロ、そして音楽の愛好家の方ならどなたにも楽しんでいただけます。チェロとの関わりでいうと、チェロの音が好きな方、チェロを趣味で習い始めた方、エキスパートの方、そしてプロのチェロ奏者の方、すべてに楽しんでいただけます。
本書には楽譜も出てきますが、楽譜が読めなくてもまったく問題ありません。著者自身による演奏のプレイリストもはいっており、本文を読みながら演奏を参照することができます。壮大なストーリーを、ぜひ文字と音による立体的な経験でお楽しみください。
著者自身による演奏プレイリストページは下記画像をタップ
(版元のアルテスパブリッシングさんのサイトに遷移します)
[著者]スティーブン・イッサーリス(Steven Isserlis CBE)
世界屈指のチェロ奏者で、独特な感性と知性と音色が多くの聴衆をとりこにしている。バロックから現代音楽まで幅広い音楽に精通し、ベルリン・フィルやボストン交響楽団など世界最高峰のオーケストラと共演。その膨大なディスコグラフィには数々の受賞作が含まれる。新曲の世界初演も数多く手がけてきた。熱心な教育家としても有名で、各地でマスタークラスを開催し、好評を博している。文筆家としての活動では、本書以外にも子ども向けの音楽書を執筆しており、こちらでの評価も高い。1998年には音楽への貢献に対し、エリザベス女王から大英帝国勲章(CBE)を授与された。楽器はモンタニャーナ(1740年製)やグァダニーニ(1745年製)も所有しているが、近年はロイヤル・アカデミー・オヴ・ミュージックから貸与されたストラディヴァリのチェロ「マルキ・ド・コルベロン」(1726年製)をおもに使用している。
[訳者]松田 健(まつだ・たけし)
関西外国語大学教授(社会学、音楽社会学、英語)、同大学外国語学部英語・デジタルコミュニケーション学科長。
著書に『テキスト現代社会学』(ミネルヴァ書房)、訳書にウィリアム・ウェーバー『音楽テイストの大転換』(法政大学出版局)、ヴァレリー・ウォルデン『チェロの100年史』(道和書院)など。モダン・チェロを山口香子、竹内良治、Marion Davies、Leopold Teraspulsky、Eric Bartlettに、バロック・チェロを懸田貴嗣に師事。1980年代には関西楽壇でフリーランス奏者として広範に活動、1990年代前半には米国マサチューセッツ大学アマースト校のPerforming Arts Divisionでチェロ講師をつとめた。日本社会学会、日本音楽学会、日本ポピュラー音楽学会、およびAmerican Sociological Associationに所属。
◉スティーヴン・イッサーリス来日ツアー2025
10月16日(木)|CELLO LEGENDS & RISING STARS(東京・浜離宮朝日ホール)終了
10月17日(金)|チェリストたちの夜会(兵庫県立芸術文化センター)終了
10月18日(土)|チェロ・アンサンブル(北九州国際音楽祭内)終了
10月20日(月)|日本チェロ協会主催マスタークラス(東京・音楽の友ホール)
10月24日(金)|広島交響楽団 第455回定期演奏会(広島文化学園HBGホール)
10月29日(水)・30日(木)|大阪フィルハーモニー交響楽団 第592回定期演奏会(フェスティバルホール)
いよいよ開幕した 第19回ショパン国際ピアノコンクール。前回は日本人ピアニストが大活躍したこともあり、寝不足になりながらもネット配信を楽しまれた方も多かったのでは?またあの日々がやってきますよ!
一方、本格的に配信を見るのははじめて…という方、どうぞご安心ください。今回は、ショパコン初心者さんからショパコンファンの方まで、コンクールをより楽しむための本をご紹介します!
★ショパン国際ピアノコンクールとは?
ショパン国際ピアノコンクールは、ポーランド・ワルシャワで5年ごとに開催される世界的ピアノコンクールです。
フレデリック・ショパンの作品のみを課題とするのが特徴で、若手ピアニストの登竜門として知られています。1927年に第1回が開かれ、アルゲリッチやポリーニなど名だたるピアニストを輩出してきました。2001年に開催された第18回では、反田恭平さん、小林愛実さん、角野隼斗さんをはじめ、多くの日本人が活躍しました。
それでは、おすすめの本たちを紹介していきます!

JAPANピアニストを応援したい!
宝島社 1,650円
詳しい内容&在庫店舗はこちら
現在世界で活躍するJAPANピアニストを熱く応援するファンブック。前回入賞者の反田さん、小林さんのほか、今をときめく若手ピアニストたちが登場しています。
そして、特集「第19回ショパン国際ピアノコンクール」では、意外に知らない最新ルールや日本人コンテスタント13名のプロフィール、さらにはショパンコンクール100年の歩み、名盤で味わうショパンの名曲など、充実の内容でお届けします!

音楽の友 2025年10月号
音楽之友社 1,650円
詳しい内容&在庫店舗はこちら
「特集:第19回ショパン国際ピアノコンクール 徹底解説」として、出場する85名すべてのピアニストたちの基本データを紹介。また、コンクールのスケジュールと概要、今回から変更された演奏曲の特徴などを網羅しています。コンクールのライヴ配信を観賞するときに、ぜひお手元に置いてご活用ください。

ショパンとショパンコンクール
音楽之友社 2,420円
詳しい内容&在庫店舗はこちら
一方こちらは、歴代の入賞者から現代の最前線までを紹介し、ショパン・コンクールをめぐる100年の歴史をたどる一冊。そして、作曲家・ショパンの生涯を紹介しつつ、主要曲の名盤紹介を掲載、作品の本質に迫ります。

[リトル・モノグラフ]
ショパン―その足跡をたどる第一歩
全音楽譜出版社 1,760円
詳しい内容&在庫店舗はこちら
ショパンの人となりをリアルに描き出す、ポーランド発の新しい伝記。少年時代から音楽界へのデビュー、パリでの暮らしぶりや、弟子、サロンに集った芸術家たちとの関わり、ジョルジュ・サンドとの交わりなど、興味深いエピソードをふんだんに盛り込んでおり、愛すべき人間・ショパンをより身近に感じられる一冊です。

ヤマハムックシリーズ
ショパン、はじめました
ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
1,980円
詳しい内容&在庫店舗はこちら
最後にご紹介するこちらは、名演を聴いてショパンを弾きたくなった方におすすめしたい、楽譜と読み物が一冊に収められたムックです。ショパン作品のなかでもやさしい曲を選び、やさしく編曲した楽譜から原曲のままで初心者が取り組みやすい曲まで、レベル別に収められています。
・・・いかがでしたか?
5年に1度の豪華な祭典を、ぜひみんなで楽しみましょう!
クラシック音楽=堅苦しい?

“クラシック音楽”という言葉を聞くと、学校の音楽室に並ぶ厳めしい肖像画や、睡魔と格闘しながらじっと聞いた音楽鑑賞会、「ソナタ形式」とか「ト長調」等々、お堅く難しそうなイメージを持たれている方が少なくないと思います。
でも、聞かず嫌いはもったいない!
心沸き立つ元気なリズム、瞑想に誘う静かな響き、心をキュンとさせる甘いメロディ、涙に寄り添ってくれる癒しの調べ…
クラシック音楽が描く世界は奥深く、未知との遭遇に溢れています。
そんなクラシック音楽への入り口を、色々とご紹介していきたいと思います。

●この記事を書いた人
もり
魚と麺類がおいしい福岡に生まれ、高校卒業後に渡欧。1年のドイツ語研修を経て、ウィーンにてピアノ、古楽奏法、音楽学、楽器法、指揮法などを学ぶ。帰国後、大学にて音楽学を専攻、同時に棒振り人生をスタート。指揮、トレーナー、講座、編曲等でクラシック系を中心に音楽と携わり、早〇十年。ニュースはスマホで読みますが、楽譜と書籍は紙印刷を今でもこよなく重宝しています。
普段の生活の中で“クラシック音楽”が流れているシーンは多く、ちょっと耳をすませば、意外にとっつきやすく身近な音楽だったりします。
初回は、そんな生活の中で聞こえる“暮らしック音楽”をご紹介していきたいと思います。
第1楽章:炊飯器から流れる『きらきら星』

生活の中で聞こえる暮らしック音楽の代表選手、まず一人目は某有名家電メーカーの炊飯器です。
炊飯スイッチを押すと聞こえてくる聞き覚えのあるメロディ、これは童謡『きらきら星』の冒頭部分です。
「きらきらひかる、お空の星よ~♪」の歌詞を懐かしく思い出す方もいるかと思いますが、アルファベットを覚える「ABCの歌」としてご記憶の方もいらっしゃるのでは、と思います。
第2楽章:モーツァルトは『きらきら星』を知らない!?

この可愛いメロディをテーマにして、クラシック界の神童、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト (1756~1791) は、12の変奏曲を作曲しました。
しかしこのメロディ、実はモーツァルト自身が作曲したものではなく、当時流行していたフランスの歌曲『あぁお母さん、聞いてちょうだい』を元ネタとした曲です。
(作曲者はフランス人ジャン・フィリップ・ラモーと言われています)
少女が男の子に恋をした甘い気持ちをお母さんに打ち明ける…
そんなキュンとした内容を歌ったこのメロディを主題にして、『Variationen über ein französisches Lied “Ah, vous dirai-je, maman”』(K265)(フランス歌曲「あぁお母さん、聞いてちょうだい」による変奏曲)として発表したものが、モーツァルト作曲『きらきら星変奏曲』なのです。
■ 楽譜はこちら

全音ピアノピース024
きらきら星変奏曲/モーツァルト
(全音楽譜出版社)
このメロディは当時からとてもポピュラーだったようで、モーツァルトの没年に生まれた、ピアノ練習曲でお馴染みのカール・チェルニー(1791~1857)は、『初心者のためのレクリエーション』で、このメロディを取り上げています。
■ 楽譜はこちら

全音ピアノライブラリー
ツェルニー 初歩者のためのレクリエーション
(全音楽譜出版社)
また、聖歌『オー・ホーリー・ナイト』やバレエ『ジゼル』で有名なアドルフ・アダン(1803~1856)も、オペラ『トレアドール』の中でこのメロディを採用しています。
モーツァルトの死後、1806年にイギリスの詩人ジェーン・テイラーが書いた『The Star』の詩を、このメロディに乗せて歌ったものが童謡として世界に広まりました。それが明治初期に日本に伝わり、やがて日本語訳でも歌われるようになったので、「きらきら星」というネーミングが定着し、モーツァルトの変奏曲も『きらきら星変奏曲』と呼ばれるようになりました。
ですので、天国のモーツァルトに、「あなたの書いた『きらきら星変奏曲』、とても素敵ですね」と言っても、「それ何?ぼくそんな曲知らないよ~」と困った顔をされると思います。
■ 楽譜はこちら

ウィーン原典版008 モーツァルト/ピアノのための変奏曲集(1)
(音楽之友社)
第3楽章:現代の「きらきら星」
最近では、ピアニストの角野隼斗さんが『7 levels of Twinkle Twinkle Little Star(7つのレベルのきらきら星変奏曲)』を作曲し、ヤマハから楽譜が出版されています。
■ 楽譜はこちら

ピアノミニアルバム 角野隼斗
7 levels of “Twinkle Twinkle Little Star”
7つのレベルのきらきら星変奏曲
(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)
第4楽章:炊き上がりには『アマリリス』
因みに、某有名家電メーカーの炊飯器で炊き上がった時には、フランス国王のルイ13世作曲で、アンリ・ギースが編曲した(こちらも諸説あります)の『アマリリス』が流れます。
こちらも歌詞付きの歌で、アマリリスという愛称を持つ恋人への愛を詠んだ恋歌です。
エピローグ
今回は炊飯器から聞こえるメロディをご紹介しましたが、家電製品から流れるクラシック音楽はたくさんあり、暮らしの中にクラシック音楽は隠れています。
何気なく聞こえてくる音楽に耳を傾け、興味をもっていただければ、新しい素敵な出会いが待っているかもしれません。そして少しだけ足を進めて、ネットで検索してみたり、楽譜を開いてみたりしてはいかがでしょうか?
楽譜は音楽にとってレシピのようなものです。同じレシピでも料理を作る人によって味が異なるように、同じ楽譜でも、演奏者によって聴こえてくる音楽は異なります。レシピを知れば料理に興味が持てるように、楽譜を見れば、その曲の隠し味が聞こえてくるかもしれません。楽器を弾くのが苦手な方も、楽譜に馴染みがない方も、簡単な楽譜の読み方をマスターし、素敵な出会いや楽しい発見を楽しんで頂ければと思います。
それでは音楽とともに、おいしいご飯をお召し上がりください。