【新連載】クラシックに詳しっく! |第1番 生活の中にある「暮らしック音楽」
ピアノ教本/クラシックピアノ
クラシック音楽=堅苦しい?

“クラシック音楽”という言葉を聞くと、学校の音楽室に並ぶ厳めしい肖像画や、睡魔と格闘しながらじっと聞いた音楽鑑賞会、「ソナタ形式」とか「ト長調」等々、お堅く難しそうなイメージを持たれている方が少なくないと思います。
でも、聞かず嫌いはもったいない!
心沸き立つ元気なリズム、瞑想に誘う静かな響き、心をキュンとさせる甘いメロディ、涙に寄り添ってくれる癒しの調べ…
クラシック音楽が描く世界は奥深く、未知との遭遇に溢れています。
そんなクラシック音楽への入り口を、色々とご紹介していきたいと思います。

●この記事を書いた人
もり
魚と麺類がおいしい福岡に生まれ、高校卒業後に渡欧。1年のドイツ語研修を経て、ウィーンにてピアノ、古楽奏法、音楽学、楽器法、指揮法などを学ぶ。帰国後、大学にて音楽学を専攻、同時に棒振り人生をスタート。指揮、トレーナー、講座、編曲等でクラシック系を中心に音楽と携わり、早〇十年。ニュースはスマホで読みますが、楽譜と書籍は紙印刷を今でもこよなく重宝しています。
第1番:おはようからおやすみまで ― 生活の中にある「暮らしック音楽」
普段の生活の中で“クラシック音楽”が流れているシーンは多く、ちょっと耳をすませば、意外にとっつきやすく身近な音楽だったりします。
初回は、そんな生活の中で聞こえる“暮らしック音楽”をご紹介していきたいと思います。
第1楽章:炊飯器から流れる『きらきら星』

生活の中で聞こえる暮らしック音楽の代表選手、まず一人目は某有名家電メーカーの炊飯器です。
炊飯スイッチを押すと聞こえてくる聞き覚えのあるメロディ、これは童謡『きらきら星』の冒頭部分です。
「きらきらひかる、お空の星よ~♪」の歌詞を懐かしく思い出す方もいるかと思いますが、アルファベットを覚える「ABCの歌」としてご記憶の方もいらっしゃるのでは、と思います。
第2楽章:モーツァルトは『きらきら星』を知らない!?

この可愛いメロディをテーマにして、クラシック界の神童、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト (1756~1791) は、12の変奏曲を作曲しました。
しかしこのメロディ、実はモーツァルト自身が作曲したものではなく、当時流行していたフランスの歌曲『あぁお母さん、聞いてちょうだい』を元ネタとした曲です。
(作曲者はフランス人ジャン・フィリップ・ラモーと言われています)
少女が男の子に恋をした甘い気持ちをお母さんに打ち明ける…
そんなキュンとした内容を歌ったこのメロディを主題にして、『Variationen über ein französisches Lied “Ah, vous dirai-je, maman”』(K265)(フランス歌曲「あぁお母さん、聞いてちょうだい」による変奏曲)として発表したものが、モーツァルト作曲『きらきら星変奏曲』なのです。
■ 楽譜はこちら

全音ピアノピース024
きらきら星変奏曲/モーツァルト
(全音楽譜出版社)
このメロディは当時からとてもポピュラーだったようで、モーツァルトの没年に生まれた、ピアノ練習曲でお馴染みのカール・チェルニー(1791~1857)は、『初心者のためのレクリエーション』で、このメロディを取り上げています。
■ 楽譜はこちら

全音ピアノライブラリー
ツェルニー 初歩者のためのレクリエーション
(全音楽譜出版社)
また、聖歌『オー・ホーリー・ナイト』やバレエ『ジゼル』で有名なシャルル・アダン(1803~1856)も、オペラ『トレアドール』の中でこのメロディを採用しています。
モーツァルトの死後、1806年にイギリスの詩人ジェーン・テイラーが書いた『The Star』の詩を、このメロディに乗せて歌ったものが童謡として世界に広まりました。それが明治初期に日本に伝わり、やがて日本語訳でも歌われるようになったので、「きらきら星」というネーミングが定着し、モーツァルトの変奏曲も『きらきら星変奏曲』と呼ばれるようになりました。
ですので、天国のモーツァルトに、「あなたの書いた『きらきら星変奏曲』、とても素敵ですね」と言っても、「それ何?ぼくそんな曲知らないよ~」と困った顔をされると思います。
■ 楽譜はこちら

ウィーン原典版008 モーツァルト/ピアノのための変奏曲集(1)
(音楽之友社)
第3楽章:現代の「きらきら星」
最近では、ピアニストの角野隼斗さんが『7 levels of Twinkle Twinkle Little Star(7つのレベルのきらきら星変奏曲)』を作曲し、ヤマハから楽譜が出版されています。
■ 楽譜はこちら

ピアノミニアルバム 角野隼斗
7 levels of “Twinkle Twinkle Little Star”
7つのレベルのきらきら星変奏曲
(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)
第4楽章:炊き上がりには『アマリリス』
因みに、某有名家電メーカーの炊飯器で炊き上がった時には、フランス国王のルイ13世作曲で、アンリ・ギースが編曲した(こちらも諸説あります)の『アマリリス』が流れます。
こちらも歌詞付きの歌で、アマリリスという愛称を持つ恋人への愛を詠んだ恋歌です。
エピローグ
今回は炊飯器から聞こえるメロディをご紹介しましたが、家電製品から流れるクラシック音楽はたくさんあり、暮らしの中にクラシック音楽は隠れています。
何気なく聞こえてくる音楽に耳を傾け、興味をもっていただければ、新しい素敵な出会いが待っているかもしれません。そして少しだけ足を進めて、ネットで検索してみたり、楽譜を開いてみたりしてはいかがでしょうか?
楽譜は音楽にとってレシピのようなものです。同じレシピでも料理を作る人によって味が異なるように、同じ楽譜でも、演奏者によって聴こえてくる音楽は異なります。レシピを知れば料理に興味が持てるように、楽譜を見れば、その曲の隠し味が聞こえてくるかもしれません。楽器を弾くのが苦手な方も、楽譜に馴染みがない方も、簡単な楽譜の読み方をマスターし、素敵な出会いや楽しい発見を楽しんで頂ければと思います。
それでは音楽とともに、おいしいご飯をお召し上がりください。