【連載】クラシックに詳しっく! |第3番:クリスマスを迎える前に/第1楽章『クリスマスを祝う宗教曲』
ピアノ教本/クラシックピアノ
第3番:クリスマスを迎える前に
昭和100年の2025年、関西では万博や阪神タイガースの優勝で盛り上がった一年も、早いもので残すところわずかとなりました。
あちらこちらでイルミネーションが煌めき、心浮き立つこの季節、街角でも様々なクラシック音楽が流れています。
今回はこの季節を彩る素敵な音楽をご紹介していきたいと思います。
『クラシックに詳しっく!』って?
普段の生活の中でクラシック音楽が流れているシーンは意外と多く、
ちょっと耳をすませば、驚くほど身近で親しみやすい音楽だったりします。
この連載では、そんな“日常でふと耳にするクラシック=暮らしック音楽”を、
季節やテーマに合わせて楽しくご紹介していきます。
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第1楽章:クリスマスを祝う宗教曲

クリスマスは、「キリストのミサ」という意味であり、言わずと知れたイエス・キリストの降誕を祝う日です。
11月30日に最も近い日曜日から約4週間、キリストの降誕を待ち望む待降節(たいこうせつ)を過ごし、その間にさまざまな行事やミサが行われ、クリスマス当日を迎えます。
まず初めに、キリスト教文化圏のお祝いで奏でられる音楽をご紹介したいと思います。
宗教的なイベントを飾る音楽として、ミサ曲などの宗教曲がありますが、この時期の定番といえば、ヘンデルの『メサイア』(日本語で救世主の意味)とJ.S.バッハの『クリスマス・オラトリオ』が挙げられます。
ヘンデルとバッハは、同じ1685年に、ハレとアイゼナハという、距離にして150kmほど、東京~軽井沢ぐらいしか離れていないドイツの街で生まれました。
ヘンデルとバッハは同じ1685年にドイツで生まれましたが、その生涯は対照的でした。
ヘンデルはイタリアに留学し、ドイツ・ハノーファーで宮廷楽長を務めた後、ロンドンへ渡ります。そこでオペラ作曲家・興行主として成功し、最終的にはイギリスに帰化した国際派の作曲家でした。
一方のバッハは、ライプツィヒをはじめとするドイツ東部を拠点に活動した、教会音楽家としての色が濃い人物です。ミサで演奏されるカンタータや、オルガンを中心とした多数の鍵盤作品を残しました。
音楽的にも、旋律美や劇性に富んだ音楽を生んだヘンデルと、対位法などの音楽語法を駆使したバッハとは対照的です。
クリスマス時期定番の2曲も、その内容は大きく異なります。
聖書などの言葉を用いて、宗教的なストーリーを描く「オラトリオ」という音楽スタイルで書かれていますが、バッハが聖書に書かれている言葉やコラールを重宝する宗教作品といった印象に比べ、ヘンデルはアリアや音楽描写を多用したオペラのような作品になっています。
ヘンデルの『メサイア』は、キリスト生誕の預言と降誕から始まり、受難を経て復活し、信仰が人々に広まっていく様子を駆け足で描いています。華やかな「ハレルヤコーラス」を始めとして、劇的華麗に音が紡がれていきます。
「ハレルヤ・コーラス」は1:46:00~
注目して聴いてみてください!
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ヘンデル:メサイア(別冊解説付) 混声合唱
(全音楽譜出版社)
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No.142.ヘンデル メサイア
(日本楽譜出版社)
これに対して、J.S.バッハの『クリスマス・オラトリオ』は、6つのカンタータによって構成されており、イエスの誕生と羊飼いたちとの出会い、東方の博士たちの来訪と、キリストの誕生前後にスポットが当てられています。
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GYA00074631 バッハ J. S. : クリスマス・オラトリオ BWV 248
(ベーレンライター社)
こちらは宗教音楽ではありませんが、バッハ、ヘンデルの少し先輩にあたるコレッリの『クリスマス協奏曲』(合奏協奏曲ト短調作品6-8)も、この時期に多く演奏される曲の一つです。
イタリア北東部の町に生まれたコレッリはヴァイオリニストとしても著名で、パリ、ミュンヘン等でも活躍しました。合奏協奏曲とは、複数のソロ楽器を伴う協奏曲のことで、コレッリ、ヴィヴァルディ、ヘンデル他、バロック時代に多く書かれました。
コレッリは、この曲の最終楽章のパストラールに「クリスマスの夜のために作曲」と記しており、ゆったりとしたテンポで、クリスマスの平安と喜びを歌っています。
「パストラール」とは牧歌という意味で、キリストの生誕を祝って羊飼いが吹いた笛の音にちなんだ楽曲を指します。
9:31~がパストラールです
■ 楽譜はこちら

No.168.コレルリ 合奏協奏曲 クリスマス協奏曲
(日本楽譜出版社)
今回はちょっとマジメな音楽を紹介しましたが、次回の第2楽章では、雪の日にぴったりなキラキラとした「冬の音の世界」をテーマに、チャイコフスキーやルロイ・アンダーソンの名曲たちをご紹介します。どうぞお楽しみに!

●この記事を書いた人
もり
魚と麺類がおいしい福岡に生まれ、高校卒業後に渡欧。1年のドイツ語研修を経て、ウィーンにてピアノ、古楽奏法、音楽学、楽器法、指揮法などを学ぶ。帰国後、大学にて音楽学を専攻、同時に棒振り人生をスタート。指揮、トレーナー、講座、編曲等でクラシック系を中心に音楽と携わり、早〇十年。ニュースはスマホで読みますが、楽譜と書籍は紙印刷を今でもこよなく重宝しています。











