【連載】クラシックに詳しっく|愛の物語~作曲家からのラブレター③
ピアノ教本/クラシックピアノ
昔も今も、作曲家は音符に想いを込め、心情を伝えてきました。
神への感謝、自然への讃歌、祖国への慕情、そして親しい人への愛…心が動き愛を感じた時に、言葉を超えた、たくさんのメロディが生まれてきました。
2月の「クラシックに詳しっく」は、「作曲家からのラブレター」と題して、恋しい人への秘めた想い、愛する人との軌跡、そして禁断の逢瀬から生まれた作品をご紹介します。

連載『クラシックに詳しっく!』って?
普段の生活の中でクラシック音楽が流れているシーンは意外と多く、
ちょっと耳をすませば、驚くほど身近で親しみやすい音楽だったりします。
この連載では、そんな“日常でふと耳にするクラシック=暮らしック音楽”を、
季節やテーマに合わせて詳しく、楽しくご紹介していきます。
バックナンバーはこちらから♪
第1番 生活の中にある「暮らしック音楽」
第2番:おはようからおやすみまで - 生活を彩る暮らしック音楽
第3番:クリスマスを迎える前に/第1楽章『クリスマスを祝う宗教曲』
第3番 クリスマスを迎える前に/第2楽章『雪の日のキラキラサウンド』
第3番:クリスマスを迎える前に/第3楽章 すべてを超えた讃美歌
第3番 クリスマスを迎える前に/第4楽章『やっぱり第九!』
第4番:ゆく年くる年クラシック
第5番「馬」にちなんだ名曲たち 前編 後編
第6番 愛の物語~作曲家からのラブレター その1 その2 その3
第7曲:舞踏への勧誘(ピアノのための華麗なるロンド)
この作品は、歌劇『魔弾の射手』の作曲者カール・マリア・フォン・ウェーバーが、33歳の結婚記念日に妻カロリーネに捧げたピアノ曲です。
男性が意中の女性に手を差し伸べ、ワルツに誘う…女性は戸惑いつつも、男性と会話を交わし、やがて二人はワルツを踊り始める…軽やかなステップ、ゆったりとしたワルツ…そしてクライマックスを迎え、踊り終えた二人は挨拶を交わし、別れる…そんな物語を音楽で表現した作品で、ヨハン・シュトラウスへと続くウィンナワルツの原型とも言われています。
■楽譜はこちら

ドイツ/オーストリア ピアノ小品集 New Edition 解説付 (音楽之友社)
『舞踏への勧誘』の他、ベートーヴェンの『エリーゼのために』、メンデルスゾーンの『春の歌』なども収録されています

全音ピアノピース062 舞踏への勧誘/ウェーバー (全音楽譜出版社)

この作品は、ウェーバーを尊敬していたベルリオーズによるオーケストラ編曲版でも有名になりました。
■オーケストラ編曲版の楽譜はこちら

ミニチュアスコア
No.041.ヴェーバー 舞踏への勧誘 (日本楽譜出版社)
ベルリオーズ編曲版のスコア
ちなみに、このウェーバーの父親の兄の家には4人の娘がいました。その二女のアロイジアに恋をし、ソプラノ歌手だった彼女にいくつもの曲を捧げるも振られ、その妹のコンスタンツェと結婚したのが、あのモーツァルトです!
アロイジアのために作曲されたコンサート・アリア「わたしは知らない、このやさしい愛情がどこからやって来るのか」K.294
■楽譜はこちら

モーツァルト コンサート アリア選集 ソプラノ (ドレミ楽譜出版社)
コロラトゥーラ※多用の難曲揃いです
※オペラや歌曲において、非常に細かく速い音符の連なり、トリル、跳躍などを駆使し、高音域を華やかに装飾して歌う技法
『魔笛』と『魔弾の射手』の作曲者が親戚関係だったとは、同業種とはいえ、世間は狭い!?

番外編:冷静な狂気!?~ベルリオーズ
1827年、女優ハリエット・スミッソンに一目惚れした駆け出しの作曲家ベルリオーズは、彼女に何通も手紙を書くものの、売れっ子女優は彼を相手にしません。激しく落胆し殺意まで覚える程だったベルリオーズでしたが、その実らぬ恋が音楽史上に残る傑作を生みました。それがこの『幻想交響曲』です。
スミスソンを表す旋律が、曲中に何度も登場しますが、ベルリオーズはこの旋律を「イデー・フィクス」(idée fixe:固定楽想の意味)と呼びました。この技法は、後にワーグナーが用いるライトモチーフの先駆けと言えます。
作曲者自身によるプログラムには「若い芸術家が女優に激しい恋をしたが、彼女は振り向いてくれない。悲嘆した芸術家は死を決意し阿片で服毒自殺を図るが、致死量に足りず昏睡状態に陥り、奇怪な幻覚を見る。その幻覚の中で芸術家は女優を殺し、その罪で死刑を受ける。死後、芸術家はその女優も加わった魔女たちの響宴に遭遇する」とあり、それぞれの楽章にも説明が記されています。
ちなみに、1832年に行われたこの作品の初演演奏会をスミスソンが聴きに来たことがきっかけで2人は再会し、交際を始め、翌年結婚します。しかし、その生活は長くは続かず、7年後には別居生活となりました。
第1楽章「夢-情熱」0:30~ 彼が愛する彼女を見たときに沸き起こる愛情、熱狂、嫉妬…
第2楽章「舞踏会」15:06~ 舞踏会の華やかなざわめきの中で、彼は再び愛する彼女に巡り合う
第3楽章「野の風景」22:08~ 夏の夕べ、田園地帯で、2人の羊飼いの牧歌を聞く…もしも彼女に捨てられたら…日が沈む… 遠くの雷鳴… 孤独… 静寂
第4楽章「断頭台への行進」39:51~ 夢の中で愛した彼女を殺した彼は、死刑を宣告され、断頭台へ引かれていく
第5楽章「魔女の饗宴の夜の夢」44:25~ 彼の葬儀のために、亡霊、魔法使いなど不気味な一団が集まっている…彼女も饗宴に加わる
イデー・フィクスの登場 第1楽章6:22~ 第2楽章17:22~ 第3楽章 30:06~ 第4楽章 43:56~ 第5楽章45:57~
■楽譜はこちら

ポケットスコア ベルリオーズ/幻想交響曲 作品14
(全音楽譜出版社)

ドレミクラヴィアアルバム ベルリオーズ「幻想交響曲」ピアノ独奏版
(ドレミ楽譜出版社)
こちらはピアノ独奏版です。作品の骨格がよく見える編曲は中島克磨氏によるものです

第8番:長年の感謝を込めて~ボロディン
ロシアの作曲家ボロディンは、ロシアの民族主義的な芸術音楽を創作する「ロシア五人組」の一人として活躍しました。
「ロシア五人組」はバラキレフ(ピアノ曲『イスラメイ』)、ムソルグスキー(ピアノ曲『展覧会の絵』)、ボロディン、リムスキー=コルサコフ(オーケストラ曲『シェエラザード』)、キュイ(オーケストラ曲『タランテラ』)の5人を指します。この5人は専業音楽家ではなく、別に本業を持ちつつ、日曜作曲家として創作に励みました。
そんなボロディンを支えた妻エカテリーナ・セルゲーエヴナとのプロポーズ20周年を祝うために作曲されたのが、この弦楽四重奏曲第2番ニ長調です。
この弦楽四重奏曲は、妻への深い愛情と、2人の思い出を音楽で描いていると言われており、第1楽章冒頭のチェロの旋律は結婚当初の2人の出会い、第4楽章のロシア舞曲のリズムは幸福な家庭生活を象徴しているそうです。
愛妻に献呈されたこの作品は、ロシア風の民族風な旋律が美しく、特に第3楽章のノクターンは単独でも演奏されます。
■楽譜はこちら

ミニチュアスコア ボロディン/弦楽四重奏曲 第2番 ニ長調
(日本楽譜出版社)
こちらはチェロと弦楽アンサンブルによる第3楽章の演奏です。チェロの甘い響きが、この曲によく似合います。

第9番:愛と苦悩の日々~マーラー
マーラーは、指揮者としてウィーン国立歌劇場やメトロポリタン歌劇場で活躍しながら、大規模な交響曲や歌曲を残しました。未完を含め、11作残された交響曲の中でも、第5番は演奏頻度が多く、第4楽章のアダージェットは、結婚したばかりの19歳年下の妻アルマへ贈った曲として別名『愛の楽章』と呼ばれています。当時、すでに交響曲第5番を作曲中だったマーラーは、「アルマに捧げる愛の証」として、この第4楽章を加えたそうです。
荒々しく激しい他の楽章とは異なった、ハープと弦楽器のみのゆったりとした憧憬に満ちた旋律が印象的です。
第1楽章1:00~ トランペットのファンファーレから始まる葬送行進曲
第2楽章13:36~ 「嵐のような荒々しい動き、最大の激烈さで」と記された、闘いのような楽章
第3楽章28:29~ ホルン独奏が活躍(ホルン奏者、立奏しています!)する、民俗舞踊のような楽章
第4楽章45:20~ 一転しての「愛の楽章」
第5楽章53:50~ 同じ旋律が幾重にも重なりあうフーガが目まぐるしく展開され、第2楽章後半で現れたコラールが響き、華々しく終わります
■楽譜はこちら

全音ポケットスコア マーラー 交響曲第5番嬰ハ短調
(全音楽譜出版社)

全音ピアノピース462
アダージェット交響曲第五番から
(全音楽譜出版社)

マーラー/ベアトリス・ベリュ:アダージェット交響曲第5番より
(合同会社ミューズ・プレス)
こちらもアダージェットのピアノ楽譜。やや上級者向けです
しかし、妻アルマの心は徐々にマーラーから離れていきます。
そんな妻の心をつなぎとめるべく、結婚当初は禁じていたアルマの作曲活動に理解を示したり、カンタータのような自身の最も大規模な交響曲第8番を「我が愛する妻 アルマ・マリアに」献呈したりと、関係修復を図りました。
ラテン語で歌われる第1部の終結部
第2部は、ゲーテの『ファウスト』第2部の最終場面を音楽化した50分を超す大作です。
「永遠の女性的なものが私たちを高みに誘う」と歌い上げて終わります。
■楽譜はこちら

OGT-1490
マーラー 交響曲第八番 改訂版 (音楽之友社)

終曲:愛は永遠に…~エピローグ
ロベルトとクララのシューマン夫妻の連綿とつづられた愛の軌跡や、ドビュッシーの『子供の領分』などの子供のために書かれた小曲集他、様々な愛の形から生まれた作品はまだまだあります。
複雑に入り組んだ作曲家社会に鋭いメスを入れ、様々な謎や疑問をそれなりに究明する「クラシックに詳しっく」で、作曲家が音符に込めた想いや背景を、また別の機会にご紹介できればと思います。
何気なく聞こえてくる音楽に耳を傾け、興味をもっていただければ、新しい素敵な出会いが待っているかもしれません。そして少しだけ足を進めて、ネットで検索してみたり、楽譜を開いてみたりしてはいかがでしょうか?
楽譜は音楽にとってレシピのようなものです。同じレシピでも料理を作る人によって味が異なるように、同じ楽譜でも、演奏者によって聴こえてくる音楽は異なります。
レシピを知れば料理に興味が持てるように、楽譜を見れば、その曲の隠し味が聞こえてくるかもしれません。楽器が得意でない方も、楽譜に馴染みがない方も、簡単な楽譜の読み方をマスターし、素敵な出会いや楽しい発見を楽しんで頂ければと思います。


●この記事を書いた人
もり
魚と麺類がおいしい福岡に生まれ、高校卒業後に渡欧。1年のドイツ語研修を経て、ウィーンにてピアノ、古楽奏法、音楽学、楽器法、指揮法などを学ぶ。帰国後、大学にて音楽学を専攻、同時に棒振り人生をスタート。指揮、トレーナー、講座、編曲等でクラシック系を中心に音楽と携わり、早〇十年。ニュースはスマホで読みますが、楽譜と書籍は紙印刷を今でもこよなく重宝しています。











