【連載】クラシックに詳しっく|愛の物語~作曲家からのラブレター①
ピアノ教本/クラシックピアノ
昔も今も、作曲家は音符に想いを込め、心情を伝えてきました。
神への感謝、自然への讃歌、祖国への慕情、そして親しい人への愛…心が動き愛を感じた時に、言葉を超えた、たくさんのメロディが生まれてきました。

今回の「クラシックに詳しっく」は、「作曲家からのラブレター」と題して、恋しい人への秘めた想い、愛する人との軌跡、そして禁断の逢瀬から生まれた作品をいくつかご紹介したいと思います。
連載『クラシックに詳しっく!』って?
普段の生活の中でクラシック音楽が流れているシーンは意外と多く、
ちょっと耳をすませば、驚くほど身近で親しみやすい音楽だったりします。
この連載では、そんな“日常でふと耳にするクラシック=暮らしック音楽”を、
季節やテーマに合わせて詳しく、楽しくご紹介していきます。
バックナンバーはこちらから♪
第1番 生活の中にある「暮らしック音楽」
第2番:おはようからおやすみまで - 生活を彩る暮らしック音楽
第3番:クリスマスを迎える前に/第1楽章『クリスマスを祝う宗教曲』
第3番 クリスマスを迎える前に/第2楽章『雪の日のキラキラサウンド』
第3番:クリスマスを迎える前に/第3楽章 すべてを超えた讃美歌
第3番 クリスマスを迎える前に/第4楽章『やっぱり第九!』
第4番:ゆく年くる年クラシック
第5番「馬」にちなんだ名曲たち(前編)
第5番「馬」にちなんだ名曲たち(後編)
第1曲:愛しき姉妹への姉妹作~ベートーヴェン
生涯独身だったベートーヴェンですが、いくつもの恋をし、失恋をしました。
『エリーゼのために』(WoO59)やピアノ・ソナタ第14番『月光』(Op27-2)で、それを垣間見ることができますが、『熱情』と呼ばれるピアノ・ソナタ23番(Op57)もそんな作品のひとつです。
30歳を間近に、ピアニスト、作曲家として名を成していたベートーヴェンのもとには、ピアノのレッスン依頼が絶えませんでした。そんな折、友人からの依頼で、ベートーヴェンはブルンスヴィク家のテレーゼとヨゼフィーネの姉妹にピアノのレッスンを行いました。そのレッスンは2週間ほど毎日行われ、最終日には、ピアノ連弾のための『ゲーテの詩による歌曲「君を思う」による4手のための6つの変奏曲』(WoO74)を作曲し、姉妹に贈っています。
■楽譜はこちら

ピアノ・デュオ・コレクション ベートーヴェン&シューマン作品集
(全音楽譜出版社)
ベートーヴェンとシューマンの連弾曲集です
その後5年の月日が流れ、結婚相手の伯爵が亡くなり、子連れの未亡人となったヨゼフィーネは、ピアノ教師として関係が続いていたベートーヴェンと相思相愛になりました。ブルンスヴィク家ではヨゼフィーネが平民のベートーヴェンと付き合うことに否定的だったものの、二人はウィーン郊外の隣同士となる家に住み、婚約カップルのような生活を送っていたと伝えられています。
当時すでに難聴に苦しめられていたベートーヴェンですが、創作意欲は盛んで、ピアノ協奏曲第4番(Op58)、弦楽四重奏曲第7~9番『ラズモフスキー』(Op59-1~3)、交響曲第4番(Op60)、ヴァイオリン協奏曲(Op61)等、傑作群が生まれた時期となります。当初はピアノ・ソナタ第21番『ヴァルトシュタイン』(Op53)の2楽章として書かれた『アンダンテ・ファヴォリ』(WoO57)は、「あなたの、あなたのアンダンテ」として彼女に贈られました。
■楽譜はこちら

[標準版ピアノ楽譜]ベートーヴェン ピアノ作品集 New Edition解説付
(音楽之友社)
意外と楽しい!?ベートーヴェンの小品集です
ピアノ・ソナタ第23番『熱情』(Op57)もこの時期に作曲され、こちらはヨゼフィーネの兄のフランツに献呈されました。将を射んとすれば馬を射る作戦だったのでしょうか?
ブルンスヴィク家から反対されながらも、密やかな愛を育んでいた二人でしたが、身分の違いなどから結婚を断念し、別れを選びました。
ヘンレ社から運指付きのベートーヴェン・ソナタ集を出しているペライアの演奏です(現在Op2~54が出版されています)
第1楽章0:02~ 第2楽章10:07~ 第3楽章16:20~
そしてこちらは、エッセイ集も好評な藤田真央さんの演奏です。(こちらは第3楽章のみです)
■藤田真央さんのエッセイ集はこちら

指先から旅をする/藤田真央
(文藝春秋)

指先から旅をする2/藤田真央
(文藝春秋)
■楽譜はこちら

園田高弘校訂版 ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ 第23番 作品57「熱情」
(春秋社)
ピアニスト園田高弘さんによる解説は必読です

[標準版ピアノ楽譜]ベートーヴェン ピアノ・ソナタ集 2 New Edition 解説付
(音楽之友社)
その4年後の1809年にベートーヴェンは新たなピアノ・ソナタを作曲します。このソナタ第24番(Op78)は情熱や苦悩とは正反対の、繊細で柔和なキラキラサウンドの曲で、2つの楽章しかない10分ほどの小品です。この作品は、ヨゼフィーネの姉のテレーゼに献呈されたため、『テレーゼ』の愛称で呼ばれています。
第1楽章0:00~ 第2楽章6:19~
■楽譜はこちら

ウィーン原典版429 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ集 3 新版 校訂報告付き
(音楽之友社)
ピアノ・ソナタ第24~32番を収録したウィーン原典版

全音ピアノライブラリー ベートーヴェン ソナタ・アルバム 2
(全音楽譜出版社)

ヨゼフィーネと相思相愛の日々を過ごしたベートーヴェン、テレーゼから贈られた彼女の肖像画を生涯大切にしていたベートーヴェン…この姉妹への特別な想いが曲に込められているように感じます。

全音ピアノライブラリー ベートーヴェン ピアノソナタ全集 第2集(リスト編)
(全音楽譜出版社)
ベートーヴェンの弟子であったツェルニーに師事したリストによる編曲版
第2曲:初恋の想い~ショパン
ピアノの詩人と言われるフレデリック・ショパンが、19歳の時に初めて作曲したピアノ協奏曲ヘ短調(Op21)。ワルシャワで、2曲のピアノ協奏曲を続けて書いていたショパンですが,先に出版したのがホ短調の協奏曲だったので、現在ホ短調が第1番(Op11)、先に書かれたヘ短調が第2番と呼ばれています。
この作品について、ショパン自身が、ワルシャワ音楽院の同級生ソプラノ歌手コンスタンチア・グワトコフスカへの想いをアダージョに書いた、と友人宛ての手紙で述べています。ショパンは告白すら出来なかったようですが、胸の内の想いを音符に込め、まずこの楽章から完成させたそうです。
メータ指揮ウィーン・フィルとラン・ランのピアノによる、シェーンブルン宮殿での野外コンサートです。
第1楽章0:55~ 第2楽章15:00~ 第3楽章24:28~
オーケストラが静かにピアノに寄り添うノクターンのような曲ですが、中間部(19:18~)では弦のトレモロに乗って、恋の悩みを吐露するような、ピアノの激しい熱情が聴かれます。
■楽譜はこちら

GYA00065090 ショパン ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 Op.21(死後発見されたヴァージョン)/エキエル編: 小型スコア
(ポーランド音楽出版社)
ショパンの意図した形を復元した、エキエル版のスコア

全音ピアノピース590 ショパン:ピアノ協奏曲第2番(全楽章より)
(全音楽譜出版社)
全楽章をメドレーでピアノ独奏用に編曲した楽譜です

この後、故郷ワルシャワを離れたショパンは、ウィーン時代を経てパリに居を構え活躍します。そこで出会い、10年を共にしたのがジョルジュ・サンドで、ショパンの創作活動が最も充実していた時期でした。
第3曲:想いを貴方に~グリーグ
劇音楽『ペールギュント』やピアノ協奏曲(Op16)で有名なグリーグが21歳の時、ソプラノ歌手ニーナ・ハーゲルップと婚約した際に、歌曲集『心の旋律集 Hjertets Melodier』(Op5)を贈りました。当時のグリーグは、まだ新進の作曲家であり指揮者として活躍を始めた頃でした。結婚に猛反対された二人は、両家の両親が不在のまま式を挙げました。
詞は童話作家としても有名なハンス・クリスチャン・アンデルセンによるもので、その3曲目『Jeg elsker Dig(君を愛す)』は、ストレートな愛を熱く歌い上げています。
スウェーデン生まれのニコライ・ゲッダの歌唱でどうぞ 歌唱0:17~
■楽譜はこちら

ニューベストセレクション 独唱名曲100選
(音楽之友社)
■楽譜はこちら

全音ピアノライブラリー グリーグ 自作歌曲による12のピアノ曲
(全音楽譜出版社)
こちらはグリーグ自身によるピアノ独奏用楽譜
グリーグの代表作のピアノ協奏曲イ短調(Op16)は、ニーナと結婚し長女が生まれた、幸せに包まれた時期に書かれた作品です。フランツ・リストからの助言もあり、初演後、作曲者自身によって何度も改訂されており、現在は最晩年に改訂された版で演奏されることが一般的です。
第1楽章0:03~ 第2楽章13:28~ 第3楽章20:11~
■楽譜はこちら

ポケットスコア グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調作品16
(全音楽譜出版社)
オーケストラスコア

全音ピアノライブラリー グリーグ ピアノ協奏曲イ短調
(全音楽譜出版社)
ピアノ・ソロと、オーケストラ担当の2台ピアノ用の楽譜です

全音ピアノピース588 グリーグ:ピアノ協奏曲(全楽章より)
(全音楽譜出版社)
全楽章をメドレーでピアノ独奏用に編曲した楽譜です
結婚後、ニーナはグリーグの歌曲創作に大きな影響を与えました。そんなニーナとの銀婚式を記念して、グリーグは小曲をニーナに贈りました。その後、この曲は友人の誕生日祝い用に書き改められ、『幸福の使い来る』とタイトルを付けられましたが、出版にあたり、『トロルドハウゲンの婚礼の日』(『抒情小曲集第8集』(Op65)より)と改題されました。「トロルドハウゲン」とは「妖精の丘」という意味で、グリーグ夫妻が生活の拠点としていた場所です。
■楽譜はこちら

標準版ピアノ楽譜 グリーグ 抒情小曲集2 New Edition解説付
(音楽之友社)
次回「愛の物語~作曲家からのラブレター②」は、イギリスのあの大作曲家の愛の軌跡と、義理の親子の物語をお送りします。次回もお楽しみに♪


●この記事を書いた人
もり
魚と麺類がおいしい福岡に生まれ、高校卒業後に渡欧。1年のドイツ語研修を経て、ウィーンにてピアノ、古楽奏法、音楽学、楽器法、指揮法などを学ぶ。帰国後、大学にて音楽学を専攻、同時に棒振り人生をスタート。指揮、トレーナー、講座、編曲等でクラシック系を中心に音楽と携わり、早〇十年。ニュースはスマホで読みますが、楽譜と書籍は紙印刷を今でもこよなく重宝しています。










