【連載】クラシックに詳しっく|愛の物語~作曲家からのラブレター②
ピアノ教本/クラシックピアノ
昔も今も、作曲家は音符に想いを込め、心情を伝えてきました。
神への感謝、自然への讃歌、祖国への慕情、そして親しい人への愛…心が動き愛を感じた時に、言葉を超えた、たくさんのメロディが生まれてきました。
2月の「クラシックに詳しっく」は、「作曲家からのラブレター」と題して、恋しい人への秘めた想い、愛する人との軌跡、そして禁断の逢瀬から生まれた作品をご紹介します。

連載『クラシックに詳しっく!』って?
普段の生活の中でクラシック音楽が流れているシーンは意外と多く、
ちょっと耳をすませば、驚くほど身近で親しみやすい音楽だったりします。
この連載では、そんな“日常でふと耳にするクラシック=暮らしック音楽”を、
季節やテーマに合わせて詳しく、楽しくご紹介していきます。
バックナンバーはこちらから♪
第1番 生活の中にある「暮らしック音楽」
第2番:おはようからおやすみまで - 生活を彩る暮らしック音楽
第3番:クリスマスを迎える前に/第1楽章『クリスマスを祝う宗教曲』
第3番 クリスマスを迎える前に/第2楽章『雪の日のキラキラサウンド』
第3番:クリスマスを迎える前に/第3楽章 すべてを超えた讃美歌
第3番 クリスマスを迎える前に/第4楽章『やっぱり第九!』
第4番:ゆく年くる年クラシック
第5番「馬」にちなんだ名曲たち 前編 後編
第6番 愛の物語~作曲家からのラブレター その1 その2 その3
第4曲:折に触れて~エルガー
イギリスの作曲家エドワード・エルガーが1888年に作曲した『愛の挨拶』(Op12)は、エルガーのピアノの教え子だったキャロライン・アリス・ロバーツとの婚約記念の作品です。
当時32歳のエルガーはまだ無名の作曲家、かたや当時40歳のキャロラインは上流階級の出身で作家として活躍しており、キャロラインの実家は結婚に猛反対だったそうです。そんな逆境にもかかわらず、自分を選んでくれたキャロラインに『愛の挨拶』は贈られました。
『愛の挨拶』は、もともとヴァイオリンとピアノのために書かれましたが、エルガー自身によって様々な編成に編曲されています。
下記の動画は、ヴァイオリン、オーボエ、ピアノのトリオで軽やかに奏でられています。
一方、こちらはフル・オーケストラによる演奏で、優雅にゆったりと歌われています。
結婚後、作曲家として次第に名前が知られるようになったエルガーは、3度目の結婚記念日にキャロラインに『弦楽セレナーデ』(Op20)をプレゼントしました。「セレナーデ」とは、恋人の部屋の窓の下で演奏したり歌う音楽のことで、特に第2楽章ラルゲットでは愛情たっぷりの音楽が奏でられます。
第1楽章0:20~ 第2楽章4:03~ 第3楽章9:49~
■楽譜はこちら

ポケットスコア エルガー:弦楽セレナード/愛の挨拶 (全音楽譜出版社)
エルガー夫人キャロライン・アリスにちなむ2つの作品のスコアを収録。
その後、結婚10周年の年には親しい友人たちを音楽で描いた『エニグマ変奏曲』を作曲しました。1899年に行われた初演は大成功をおさめ、エルガーの名声は大いに高まりました。第9変奏の『ニムロッド』が単独で演奏されることも多いこの作品ですが、その第一変奏に登場するのがキャロラインです。
結婚後、秘書のようにエルガーを支え、彼の創作活動に大きな影響を与えたキャロラインへの感謝と愛情が感じられる美しい変奏です。
キャロラインを描いた第1変奏は2:33~4:45、たっぷり濃厚に奏でられる『ニムロッド』は14:25~19:53に登場します。
弦が奏でる旋律が美しい『ニムロッド』。
ニムロッドとは、エルガーの親友である楽譜出版社のオーガスト・イェーガーの愛称です。
■楽譜はこちら

ポケットスコア エルガー:エニグマ変奏曲 作品36 (全音楽譜出版社)
エルガーの代表的な管弦楽曲のポケットスコア

全音ピアノライブラリー エルガー ピアノ曲集 (全音楽譜出版社)
大英図書館、生家博物館などで保管されているエルガーの自筆譜、初期の出版楽譜などの資料に基づき綿密に校閲・校訂した作品集

第5曲:穏やかに響く鐘の音~リスト
ピアニストとしてアイドル的存在でもあり、女性ファンの失神が続出したとの逸話も残るリストは、多くの女性と恋愛関係を持ちました。
その一人、マリー・ダクー伯爵夫人との駆け落ちから始まった同棲生活は約10年間続き、2人の間には3人の子供が産まれました。
同棲が始まった頃の1835年から1836年にかけて、夫人とスイスを旅した時の印象に基づいて書かれたのが『巡礼の年 第1年 スイス』です。単独演奏される『泉のほとりで』や、『オーベルマンの谷』がこの曲集に含まれており、『ジュネーブの鐘』は、この曲集の最後に収録されています。この作品は、マリーとの間に生まれた長女ブランディーヌに捧げられました。
静かな湖面に響く、美しい鐘の音から始まり、祈るような安らぎと情熱的な愛が奏でられます。
同じ鐘の音でも、『ラ・カンパネラ』の華やかさとは異なる世界です。
■楽譜はこちら

[新版]リスト ピアノ作品集[2] (全音楽譜出版社)
『愛の夢』、『ダンテを読んで』、『エステ荘の噴水』他も収録!

(1490)リスト 巡礼の年 第1年「スイス」/原典版/JOST編 (原典版/ヘンレ社)
ドイツの老舗出版社・ヘンレ社による原典版ピアノ楽譜

賑やかな鐘の音が響く『パガニーニの主題による大練習曲』第3曲の『ラ・カンパネラ』。
■楽譜はこちら

全音ピアノライブラリー リスト パガニーニ大練習曲集[原典版] 《ラ・カンパネッラ》旧稿付
(全音楽譜出版社)
ニコロ・パガニーニの超絶的なヴァイオリン演奏を聴き、衝撃を受けた21歳のリストが、改稿を重ねて完成させた傑作

ヤマハミュージック オリジナル楽譜 開いて使えるピアノ連弾ピース No.7 ラ・カンパネラ (ヤマハ)
楽器店とヤマハの楽譜出版がコラボレーションして作られたオリジナル楽譜
原曲のパガニーニ作曲ヴァイオリン協奏曲第2番ロ短調第3楽章『鐘のロンド』はこちらです。パガニーニ国際ヴァイオリンコンクールで優勝した庄司紗矢香さんの演奏で、超絶技巧をお楽しみください。
ちなみに、かのショパンとジョルジュ・サンドが初めて出会ったのは、マリー・ダグー伯爵爵夫人主催のホームパーティーだったそうです。ショパンはリストへの敬意も込めて、マリーに『12の練習曲集』(Op25)を献呈しています。
第6曲:2度のサプライズ~ワーグナー
波瀾万丈紆余曲折毀誉褒貶の半生を過ごしたワーグナーは、恋愛にも積極的でした。
音楽家、指揮者として頭角を現していたワーグナーでしたが、ドイツ3月革命に参加し、指名手配となったため、スイスへ亡命をします。そこで自分を庇護してくれたオットー・ヴェーゼンドンクの妻マティルデと情事を重ね、彼女が書いた詩に曲を付けました。そしてマティルデの誕生日である1857年12月23日に、『夢』を室内オーケストラによって、窓越しに聞こえるように演奏しました。後にそれは『ヴェーゼンドンク歌曲集』と名付けられた5曲目に収められました。
また、この作品は同時に作曲していた、媚薬による恋愛を描いた楽劇『トリスタンとイゾルデ』の第2幕に転用されています。
1:『天使』 2:『止まれ』3:04~ 3:『温室にて』7:08~ 4:『悩み』12:56~ 5:『夢』15:25~
■楽譜はこちら

ドイツ歌曲集 2 [改訂新版] 原調版
(全音楽譜出版社)
『夢』『天使』の他、シューマンの『ミルテの花』や『リーダークライス』の抜粋、マーラーの『少年の魔法の角笛』抜粋等が収録されています
そんなワーグナーがようやくたどり着いたのがコジマとの生活でした。コジマとワーグナーの出会いは1862年、それから幾たびの波乱を経て、1870年に前夫との離婚が成立したコジマは晴れてワーグナーと正式に再婚しました。その年のコジマの誕生日祝いにワーグナーが贈った曲が『ジークフリート牧歌』です。
すでにこの時2人には3人の子供が誕生しており、3人目の男の子の名前はジークフリートと名づけられていました。
この作品は彼女の誕生日12月25日の朝、寝室横の階段で、ワーグナーの友人たちによって初演されました。ヴェーゼンドンクと同じパターンですが、このサプライズはコジマを大変喜ばせ、その日に何度も再演されたそうです。
■楽譜はこちら

ポケットスコア ワーグナー/ジークフリート牧歌 (全音楽譜出版社)
因みに、コジマは『ジュネーブの鐘』で登場したリストとマリー・ダグー伯爵夫人の次女として生まれた女性です。ワーグナーにとって、リストは義父にあたりますが、年齢的には2歳しか変わらず、残された書簡から、互いに尊敬の念をもって親交していたように思われます。
ワーグナーの訃報を聞いたリストは、『ワーグナーの墓に』を書き、自分より若いワーグナーの死を悼みました。

いかがでしたか? 次回はウェーバー、ベルリオーズ、ボロディン、マーラーの愛の物語をご紹介します。

●この記事を書いた人
もり
魚と麺類がおいしい福岡に生まれ、高校卒業後に渡欧。1年のドイツ語研修を経て、ウィーンにてピアノ、古楽奏法、音楽学、楽器法、指揮法などを学ぶ。帰国後、大学にて音楽学を専攻、同時に棒振り人生をスタート。指揮、トレーナー、講座、編曲等でクラシック系を中心に音楽と携わり、早〇十年。ニュースはスマホで読みますが、楽譜と書籍は紙印刷を今でもこよなく重宝しています。











