【連載】クラシックに詳しっく 式典を彩る音楽〈後編〉 卒業式②
ピアノ教本/クラシックピアノ
三寒四温の日々ですが、お変わりありませんでしょうか?
3月の一大イベントと言えば、卒業式!
前編に引き続き、3月の「クラシックに詳しっく」では、学生生活に一区切りをつける式典で聞くことの多い作品をご紹介します。

連載『クラシックに詳しっく!』って?
普段の生活の中でクラシック音楽が流れているシーンは意外と多く、
ちょっと耳をすませば、驚くほど身近で親しみやすい音楽だったりします。
この連載では、そんな“日常でふと耳にするクラシック=暮らしック音楽”を、
季節やテーマに合わせて詳しく、楽しくご紹介していきます。
バックナンバーはこちらから♪
第1番 生活の中にある「暮らしック音楽」
第2番:おはようからおやすみまで - 生活を彩る暮らしック音楽
第3番:クリスマスを迎える前に/第1楽章『クリスマスを祝う宗教曲』
第3番 クリスマスを迎える前に/第2楽章『雪の日のキラキラサウンド』
第3番:クリスマスを迎える前に/第3楽章 すべてを超えた讃美歌
第3番 クリスマスを迎える前に/第4楽章『やっぱり第九!』
第4番:ゆく年くる年クラシック
第5番「馬」にちなんだ名曲たち 前編 後編
第6番 愛の物語~作曲家からのラブレター その1 その2 その3
第7番 式典を彩る音楽|卒業式編 前編 後編
第3楽章:授与式にて
卒業式のメインイベント、卒業証書授与式では、心落ち着くメロディが似合います。
まずは、息の長い、静かなメロディが印象的な、J.S.バッハ作曲の管弦楽組曲第3番BWV1068より『エア』をご紹介しましょう。
J.S.バッハは管弦楽組曲を4つ残していますが、その中でも最も有名な作品が第3組曲に含まれる、この『エア』です。
エア(Air)とは、器楽独奏や合奏のために書かれたメロディックな曲のことで、オペラにおけるアリアのような楽曲を指します。
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ポケットスコア J.S.バッハ:管弦楽組曲[全4曲]BWV1066~1069(全音楽譜出版社)
バッハの管弦楽組曲全4曲を収録した全音スコア。ベルリンにある18世紀の筆写パート譜等の様々な資料を校閲して新しく制作しています。
ドイツ人ヴァイオリニストのヴィルヘルミが、この曲をG線(ヴァイオリンの4本の弦の中で、最低音が出る弦)だけで演奏できるように編曲したことで、この曲は『G線上のアリア』と呼ばれるようになりました。左手のポジション移動にご注目ください。
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ヴァイオリン・クラシック名曲選2~ヴォカリーズ~ ピアノ伴奏譜つき(全音楽譜出版社)
『G線上のアリア』の他、ベートーヴェンの『ロマンス』やラフマニノフの『ヴォカリーズ』、ポルティーニの『踊る人形』他、ヴァイオリン小品が多く収録されています
オリジナルは弦楽合奏ですが、様々な楽器で演奏されています。
慰霊祭などで鎮魂のために演奏されることも多く、こちらは、阪神淡路大震災の1週間後に、追悼演奏された映像です
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『アリア』(G線上のアリア)全音ピアノピース455(全音楽譜出版社)
こちらはピアノピースです

全音ピアノ連弾ピース PDP-015 管弦楽組曲第3番より『アリア』(全音楽譜出版社)
こちらは連弾で楽しめる『アリア』です
同じくバッハの『主よ、人の望みの喜びよ(Jesu, Joy of Man’s Desiring)』も、式典や結婚式のBGMとしてよく演奏される作品です。
この曲は、教会での礼拝のために書かれた教会カンタータ第147番『心と口と行いと生活で』(BWV147)の中で歌われる合唱曲ですが、その旋律の美しさから様々なアレンジで演奏されています。
バッハが残したカンタータは200曲近くにありますが、その中でも特に有名な旋律です。
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弦楽アレンジ・レパートリー [カルテット]vol.3(全音楽譜出版社)
クラシックからポピュラーまで、定番の名曲を弦楽四重奏用にアレンジした曲集です。『主よ、人の望みの喜びよ』の他、アラジンの『ホール・ニュー・ワールド』、『ラデッキー行進曲』が収められています。

文字と楽譜が“ホントに”大きい ソロ・ギター癒しのクラシックレパートリー(ヤマハ)
タブ譜表記の見やすい楽譜で『G線上のアリア』、『乙女の祈り』、『エリーゼのために』他、癒しのクラシック音楽が数多く収められています。
こちらはカンタータ第147番の全曲です。
『主よ、人の望みの喜びよ』の旋律は、第1部の終曲16:09~と、歌詞を変えて第2部の終わり27:12~で歌われます
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ミニチュアスコア No.278
J.S.BACH/カンタータ第147番(日本楽譜出版社)
こちらはカンタータ第147番全曲のスコアです
ピアノ独奏版でも愛奏されています
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全音ピアノライブラリー
『主よ、人の望みの喜びよ』
(全音楽譜出版社)
マイラ・ヘスの編曲でピアノのソロ、連弾、2台ピアノ用楽譜が一冊におさめられています。
その他にも、カンタータ第140番『目を覚ませと呼ぶ声が聞こえ』で歌われる合唱曲も、単独で取り上げられることが多い作品です。
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全音ピアノピース528
J.S.バッハ/目覚めよと呼ぶ声が聞こえ
(全音楽譜出版社)
こちらはピアノソロ用楽譜ですが、映像のブゾーニ編曲の楽譜ではありませんので、ご注意ください
カンタータ第140番の全曲になります。コラールは15:20~歌われます
また、カンタータ第156番『わが片足は墓のありて』第1曲『シンフォニア』のオーボエで奏でられるメロディも美しく、オリジナルのオーボエだけでなく、様々な楽器で演奏されています。
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管楽器&ピアノ伴奏譜 独奏オーボエとピアノのための「アリオーソ」/バッハ(Bach)LCS542(フェアリー)
こちらはオンデマンド(受注生産)楽譜となります
こちらはカンタータ156番全曲の演奏です
7:36~のアリアでもオーボエが活躍します
こちらはフル・オーケストラによる編曲版で、濃密なロマンティックなサウンドが楽しめます。
バッハ自身もチェンバロ協奏曲第5番(BWV1056)の第2楽章に転用しており、静謐な優美さが、心にやさしく寄り添ってくれます
より一層、静謐さが際立つギターでの演奏も素敵です
一見お堅いと思われがちの教会音楽のカンタータですが、単独で演奏される愛らしいメロディも多く、厳かな雰囲気の式典にマッチします。
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全音ピアノライブラリー
J.S.バッハ=ケンプ:ピアノのための10の編曲ミニチュアスコア (全音楽譜出版社)
バッハの美しい旋律を名ピアニストのケンプがピアノ独奏用に編曲したた作品集です

ピアノ連弾作品集第1巻 J.S.バッハ(YAMAHA)
『主よ、人の望みの喜びよ』、『目覚めよと呼ぶ声あり』、『エア(G線上のアリア)』、ブランデンブルク協奏曲他を1台4手のピアノで楽しめます
また、気難しそうな表情が印象に残る肖像画のバッハですが、ジャズとの相性も良く、意外とハマリます
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藤井英一のバッハ・イン・ジャズ(YAMAHA)
日本のジャズ・ピアノの開拓者である藤井英一による、クラシック曲のジャズアレンジ集シリーズよりバッハの集めた楽譜です

ジャズで楽しむ名曲 Jazzyバッハ(全音楽譜出版社)
おしゃれなアレンジで、ノリノリのバッハと出会えます

次は、J.S.バッハより1世代前のヨハン・パッヘルベルをご紹介しましょう。
『カノン』の作曲家として有名なパッヘルベルは、オルガニスト・作曲家として、ウィーンやニュルンベルク等で活躍し、『マニフィカト』などの宗教曲や多数のオルガン作品を残しています。
この曲は『カノン』という輪唱部分と、『ジーグ』というテンポの速い舞曲の2曲で構成されています。『カノン』のみが有名ですが、本来は2曲を続けて演奏する形で作られました。
折り重なり合う旋律が、同じ場所を過ごした日々を思い起こすかのようです。
こちらは、合唱とフルオーケストラによるゴージャスな演奏です。
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珠玉の名曲ピアノ・ピース パッヘルベルのカノン(ドレミ楽譜出版社)
〈初~中級〉〈上級〉〈連弾〉と3つのアレンジが収載されています

初級からのヴァイオリン二重奏~ファースト・ポジションで楽しむアンサンブル 第3版(全音楽譜出版社)
初級向けのヴァイオリン・デュオ曲集で、クラシックから映画音楽まで、幅広く楽しめる1冊です。

クラリネット アンサンブル de クラシック(YAMAHA)
耳なじみのクラシック曲を集めたアンサンブル曲集です。クラリネットの響きが『カノン』に似合います。

モーツァルトのクラリネット協奏曲第2楽章も、このシーンにやさしく寄り添ってくれる音楽です。
第1楽章(01:21~)と第3楽章(19:55~)は軽快なテンポで演奏されます
■楽譜はこちら

ポケットスコア モーツァルト クラリネット協奏曲(全音楽譜出版社)
クラリネットは、当時はまだ目新しく、ようやくオーケストラの仲間入りをし始めた楽器でした。モーツァルトの交響曲や協奏曲の中で、クラリネットが用いられていない作品は多くあります。しかし、名手アントン・シュタードラーの音に惚れ込んだモーツァルトは、彼のためにクラリネット五重奏曲K581やクラリネット協奏曲K622を残しました。
第1楽章(Allegro) 00:00~ 第2楽章(Larghetto) 09:03~
第3楽章(Menuetto – Trio) 14:50~ 第4楽章(Allegretto con variazioni)21:41~
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モーツァルト/クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581 および 断片 K.Anh.91(516c) 原典版(ヘンレ社)
こちらは輸入譜となります。

昨年生誕150周年を迎えたフランスの作曲家、ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』も、この場面で用いられることのある作品です。
パヴァーヌとは、16~17世紀頃のヨーロッパで流行したゆったりと舞う宮廷舞踏の名称です。
「亡き王女」と言っても、特定の王女のことではなく、フランス語のタイトル『Pavane pour une infante défunte』のInfante(王女)と défunte(亡き/過ぎ去った)の韻を踏んだ語呂合わせとラヴェル自身が言い残しています。ラヴェルのこの作品は、「過ぎ去った昔に王女が踊ったパヴァーヌ」を描いた、古式ゆかしき風習や情緒に対する郷愁を表現しており、過ぎ去った大切な時間を思い起こすような音楽です。
■楽譜はこちら

ラヴェル ピアノ曲集 Ⅰ 古風なメヌエット、亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェ演奏の権威、ヴラド・ペルルミュテール(1904-2002)が、運指、ペダリングを施し、演奏の要点の書き込みをし、序文と解説も寄せた実用譜です。

日本語ライセンス版 ラヴェル : ピアノ作品集 第3巻(連弾) マ・メール・ロア/亡き王女のためのパヴァーヌ
こちらは連弾用の楽譜です
オリジナルはピアノ独奏曲ですが、ラヴェル自身が10年後にオーケストラ用に編曲しており、この版でもよく演奏される小品です。
■楽譜はこちら

ミポケットスコア ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ (全音楽譜出版社)
ピアノ独奏譜も併記されいるので、便利です

CSO69 コンクール セレクション(ソロ・セレクション) 亡き王女のためのパヴァーヌ(ホルン+ピアノ)(モーリス・ラヴェル)
ホルンとピアノによるアレンジで、オケ版とピアノ独奏版の良いとこどりが楽しめます
第4楽章:〆はやっぱり…
そして卒業式に欠かせないのが『蛍の光』。
今はあまり歌われなくなったようですが、卒業式の定番ソングと言えば、『仰げば尊し』と『蛍の光』のセットでした。
日本では卒業式やNHK紅白歌合戦のエンディング、閉店時のメロディとして耳なじみですが、このメロディの出典はイングランド民謡です。
スコットランドの国民的詩人であるロバート・バーンズが、1788年に現在歌われている詞を作りました。タイトルは『Auld Lang Syne』、「懐かしい昔」という意味で、旧友と再会し思い出話をしつつ酒を酌み交わす、といった内容を歌った歌です。
当時より広く歌われていたようで、あのベートーヴェンも『12のスコットランドの歌(WoO156)』の11曲目(下記の動画24:08~)で、このメロディを取り上げています。
この曲は、歌詞の内容も相まってか、英語圏では年越しに歌われる定番曲となっています。
ほかには、入場曲の『威風堂々』(エルガー作曲)で取り上げた、ロンドンで夏季に8週間にわたって開催されている、プロムナードコンサート(プロムス)の最終日でも、この曲は欠かせません。
アンコールの最後に、お客さんが手を取り合い歌うシーンはとても感動的です。
0:00~『エルサレム』 2:53~『イギリス国歌』 6:00あたり~『Auld Lang Syne』
日本語の歌詞を書いたのは、明治時代に活躍した国文学者・教育者の稲垣千頴です。蛍の光や雪明かりで勉学に励む中国の故事「蛍雪の功」を読んだこの詩は、明治初期に書かれ、第二次世界大戦後の昭和24年より教科書に掲載されたことで広まりました。
日本では『蛍の光』のタイトルで歌われているこのメロディですが、原語では再会を祝す歌なんですね。

エピローグ:さよならだけどさよならじゃない…
外国語の「さようなら」を見ると、ドイツ語は「Auf Wiedersehen」、フランス語は「Au revoir」、イタリア語は「Arrivederci」、中国語は「再见」、ロシア語は「До свидания」と、どれも直訳すると「再び会いましょう」の意味になります。
さよならだけどさよならじゃない、次の再会を楽しみにしつつ、輝かしい将来へ向かうためのしばしのお別れ…、そんな方々へ温かいエールを代弁してくれるのが、卒業式を彩る音楽なのかもしれません。
そんな何気なく聞こえてくる音楽に耳を傾け、興味をもっていただければ、新しい素敵な出会いが待っているかもしれません。そして少しだけ足を進めて、ネットで検索してみたり、楽譜を開いてみたりしてはいかがでしょうか?
楽譜は音楽にとってレシピのようなものです。同じレシピでも料理を作る人によって味が異なるように、同じ楽譜でも、演奏者によって聴こえてくる音楽は異なります。
レシピを知れば料理に興味が持てるように、楽譜を見れば、その曲の隠し味が聞こえてくるかもしれません。楽器が得意でない方も、楽譜に馴染みがない方も、簡単な楽譜の読み方をマスターし、素敵な出会いや楽しい発見を楽しんで頂ければと思います。
新たなステージへ旅立たれる方々へ、これからの益々のご活躍をお祈りします。

次回4月号は「春を彩るクラシック」をお送りします。

●この記事を書いた人
もり
魚と麺類がおいしい福岡に生まれ、高校卒業後に渡欧。1年のドイツ語研修を経て、ウィーンにてピアノ、古楽奏法、音楽学、楽器法、指揮法などを学ぶ。帰国後、大学にて音楽学を専攻、同時に棒振り人生をスタート。指揮、トレーナー、講座、編曲等でクラシック系を中心に音楽と携わり、早〇十年。ニュースはスマホで読みますが、楽譜と書籍は紙印刷を今でもこよなく重宝しています。










