【連載】クラシックに詳しっく!|第8番 春の訪れ〈後編〉
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4月も後半となり、新年度から新たな生活を始められた方も、そろそろ落ち着いてきた頃かと思います。
春の訪れを描いた作品をご紹介している4月の「クラシックに詳しっく」、後半はオーケストラで奏でる音色を中心にお届けいたします。

連載『クラシックに詳しっく!』って?
普段の生活の中でクラシック音楽が流れているシーンは意外と多く、
ちょっと耳をすませば、驚くほど身近で親しみやすい音楽だったりします。
この連載では、そんな“日常でふと耳にするクラシック=暮らしック音楽”を、
季節やテーマに合わせて詳しく、楽しくご紹介していきます。
バックナンバーはこちらから♪
第1番 生活の中にある「暮らしック音楽」
第2番:おはようからおやすみまで - 生活を彩る暮らしック音楽
第3番:クリスマスを迎える前に/第1楽章『クリスマスを祝う宗教曲』
第3番 クリスマスを迎える前に/第2楽章『雪の日のキラキラサウンド』
第3番:クリスマスを迎える前に/第3楽章 すべてを超えた讃美歌
第3番 クリスマスを迎える前に/第4楽章『やっぱり第九!』
第4番:ゆく年くる年クラシック
第5番「馬」にちなんだ名曲たち 前編 後編
第6番 愛の物語~作曲家からのラブレター その1 その2 その3
第7番 式典を彩る音楽~卒業式編 前編 後編
第8番 春の訪れ 前編 後編
第3楽章:オーケストラで描く春の響き
自然が奏でる歌、鳥の鳴き声は、多くの作曲家にインスピレーションを与えてきました。
春の目覚めを告げる、そんな作品をいくつかご紹介します。

交響曲第6番『田園』より第2楽章「小川のほとりの情景」/ ベートーヴェン
交響曲第5番『運命』と同じ時期に書かれ、同じに日に初演された、ベートヴェンによる自然賛歌のこの作品は、当時としては異例の交響曲でした。各楽章に標題があり、全部で5つの楽章によって構成され、第3楽章~第5楽章は休みなく演奏されるなど、ベートヴェンの型破りな創作意欲が垣間見える作品となっています。
この当時、すでにベートーヴェンの耳はほぼ聞こえなくなっており、作曲と兼業していたピアニスト、ピアノ教師としての活動を断念し、作曲活動に専念するようになりました。そんなベートーヴェンが心で聴いた自然界の響き、感情の表出を描いたのがこの『田園』と言えます。
その第2楽章は、弦楽器による小川のせせらぎや鳥のさえずりが美しい曲で、後半では木管楽器による鳥の鳴き声の競演(23:00~)が楽しめます。
その他の楽章でも、鳥の声を模した響きが随所に聞かれます。
第1楽章:田舎に着いた時の晴れ晴れとした気分の目覚め(0:04~)
第2楽章:小川のほとりの情景(12:18~)
第3楽章:田舎の人々の楽しい集い(24:37~)
第4楽章:雷雨、嵐(29:46~)
第5楽章:羊飼いの歌。嵐の後の喜ばしく感謝に満ちた気持ち (33:17~)
■楽譜はこちら

ポケットスコア
ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」ヘ長調 作品68
(全音楽譜出版社)

リスト編曲
ベートーヴェン:交響曲全集第2巻
(春秋社)
ベートーヴェンを敬愛していたリストによる、ベートーヴェンの交響曲のピアノ独奏編曲版です。第2巻には第6番~第9番が収められています。

ワルツ『春の声』/ヨハン・シュトラウスⅡ世
オーケストラとソプラノ歌手が、昼間のヒバリと夜のナイチンゲールの歌声を模しながら、春を迎える喜びを歌うこの曲は、ワルツ王と言われるヨハン・シュトラウスⅡ世(お父さんは『ラデッキー行進曲』を作曲したヨハン・シュトラウスⅠ世)が57歳の時に書いた作品です。
この曲にはオーケストラのみで演奏される版もありますが、初演時はオーケストラをバックにソプラノ歌手が歌う形で行われ、大成功を収めました。細かい装飾が耳を楽しませてくれるコロラトゥーラを駆使し、華麗な春を演出してくれます。
■楽譜はこちら

全音ピアノライブラリー J.シュトラウスⅡ世:ワルツ『春の声』4手連弾用
(全音楽譜出版社)

全音ピアノライブラリー J.シュトラウスⅡ世:ワルツ・ポルカ集
(全音楽譜出版社)
こちらはシュトラウスの有名なワルツやポルカをピアノ独奏用に編曲した楽譜です。

春初めてのカッコウを聞いて/ディーリアス
ディーリアスはドビュッシーやシベリウスと同時代に活躍したイギリスの作曲家です。
と言っても、ドイツ人の両親のもとに生まれ、アメリカ、ドイツと渡り歩き、ドイツ人と結婚し、一時的にイギリスに居住するものの、生涯の大半をフランスで過ごした、国際色豊かな人物でした。
曲を通してクラリネット等の木管楽器でカッコウの鳴き声が現され、暖かくすがすがしい春の訪れを告げてくれます。
この作品は、『小オーケストラのための2つの小品』の1曲で、同時期に書かれた『川面の夏の夜』とともに、自然や情景の描写が美しい作品です。

揚げひばり/ヴォーン・ウィリアムズ
ディーリアスの10年後に生まれたレイフ・ヴォーン・ウィリアムズは、その生涯のほとんどをイギリスで過ごし、イングランドの民謡の採集や、イギリス音楽の研究等、イギリス音楽の発展に寄与した作曲家です。9つの交響曲や『グリーンスリーブスの主題による幻想曲』などが有名な作品ですが、この『揚げひばり』も彼の代表作の1曲です。
この曲は「ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス」という副題がついており、独奏ヴァイオリンがひばりの鳴き声を模倣した後、空高く飛翔するヒバリの姿を想起させる美しいメロディを奏でます。

交響曲第1番より第1楽章/マーラー
作曲家として交響曲や歌曲を残したマーラーですが、生前はヨーロッパを中心に指揮者として多忙を極める生活でした。幼少のころから音楽的才能を発揮し、20代前半には歌劇場を中心に指揮者として活躍していましたが、その活動と併行して書かれたのがこの交響曲第1番です。当初は5楽章形式で、標題もついていましたが、後に4楽章形式に改め、標題も削除し、現行の形が完成しました。
澄んだ空気を模したかのような微かな音で始まり、木管楽器による鳥の歌や、遠くで響くファンファーレやホルンの牧歌など、初春の朝を思わせる音楽が展開されていきます。
第2楽章 18:53~ 南部ドイツの民俗舞踊が踊られます
第3楽章 27:33~ コントラバスのソロから始まる葬送行進曲
第4楽章 38:41~ 嵐の場面からは始まり、喜怒哀楽様々な表情が描かれます
57:38~、マーラー指定によるホルン立奏が見られ、輝かしいフィナーレを迎えます
■楽譜はこちら

OGT-1446 マーラー:交響曲第1番(フィルハーモニア版)
(音楽之友社)
指揮者ならではの、細かい演奏記号や指示が書き込まれたスコアです。

『春』のタイトルが付いたクラシック音楽と言えば、シューマンの交響曲第1番やベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第5番、ハイドンのオラトリオ『四季』等、いろいろとありますが、大本命と言えばこれでしょう!
ヴァイオリン協奏曲『春』/ヴィヴァルディ
この曲には、ヴィヴァルディ自身が書いたと言われるソネットという、日本の短歌のような詩が記されており、音楽でその情景や心情が描かれています。
ヴィヴァルディは、ヴェネツィアにある孤児院に併設された音楽学校でヴァイオリン教師として働いており、生徒の練習曲として数多くの作品を残しました。そのため、技術的に平易な作品が多く、今でもヴァイオリン教則本等に様々な作品が収録されています。
『四季』が圧倒的に有名なヴィヴァルディですが、『四季』は、『和声と創意への試み』op.8という、全12曲からなるヴァイオリン協奏曲の最初の4曲に当たります。その他にも『調和の霊感』op3(全12曲)をはじめ、63年の生涯に500作以上の協奏曲を書いたと言われており、協奏曲の形式(速いテンポの第1、第3楽章の間にゆっくりとしたテンポの第2楽章を挟む)を確立しました。
1:21~そよ風の息吹に泉が応える 1:52~春を告げる稲妻と雷鳴
2:27~小鳥たちが再び歌い始める
近未来の響き!?

■楽譜はこちら

ポケットスコア ヴィヴァルディ:協奏曲集「四季」(全音楽譜出版社)
ソネットを読みながら曲を聴くと、より一層楽しめます。

ドレミ・クラヴィア・アルバム ヴィヴァルディ「四季」
(ドレミ楽譜出版社)
こちらはピアノ独奏用に編曲された『四季』です。

信長貴富「ヴィヴァルディが見た日本の四季」 混声合唱、ヴァイオリン、ピアノのための(カワイ出版)
合唱音楽の第一人者、信長貴富さんによる、ヴィヴァルディと日本歌曲のコラボレーション。
その他、イタリアのレスピーギが17世紀の音楽をもとにして書いた組曲『鳥』や、スウェーデンの作曲家ヨナーソンの『かっこうワルツ』、鳥以外にも様々な生き物が登場するサン=サーンスの『動物の謝肉祭』、20世紀フランスの作曲家・音楽教育者、そして鳥類研究家としても有名なメシアンの『鳥のカタログ』(ピアノ独奏曲)や、『鳥たちの目覚め』等々、多くの作曲家が自然界の歌声をモチーフに、様々な作品を残しています。

第4楽章:復活祭を祝って
春を迎えるこの時期、キリスト教文化圏では、十字架に架けられて亡くなったイエス・キリストが3日後に復活したことを祝う復活祭(イースター)を迎えます。復活祭は「春分後の最初の満月の日に続く最初の日曜日」がその日となっており、今年は4月5日、昨年2025年は4月20日、来年は3月28日(東方正教会は5月2日)と変動する移動祝日です。キリスト教文化圏では、生命の復活と繁栄を祝う、春の最も重要な行事とされています。
復活祭では、新たな命の象徴としてカラフルに装飾されたイースター・エッグと呼ばれる卵を自宅の庭に隠し、子どもたちがそれを探すゲームが行われます。それは復活祭前夜に、兎が卵の贈り物をもってやってくるという言い伝えがあるためで、繁殖力の強いウサギと、新しい命を象徴である卵は、生命誕生のシンボルとされています。

復活祭はキリストの復活を祝うだけでなく、春の訪れや自然の再生を祝う日であり、クラシック音楽界でも、ザルツブルグやバーデン=バーデン、ルツェルンなどをはじめとして、いろんな場所で音楽祭が開かれます。また、この時期特に演奏頻度が高いクラシック音楽が、J.S.バッハの『マタイ受難曲』(BWV244)や『復活祭オラトリオ』(BWV249)、ヘンデルの『メサイヤ』などで、キリストの苦難と復活を感じる時期となっています。
復活祭オラトリオ(BWV249)/J.S.バッハ
これは復活祭の日曜日の礼拝のために書かれた作品で、1725年にライプツィヒでカンタータとして初演され、後にオラトリオとして改作されました。
オーケストラによる序曲で始まり、フルートによる祈りの旋律(4:09~)、キリストの墓が空になっていること発見した驚きが描かれた「来い、急げ、走れ、逃げまどう者たちよ」(7:32)、イエスに塗油が捧げられなかったことを嘆くアリア「魂よ、あなたの香料は」13:27~、キリストの復活を喜ぶ合唱「賞賛と感謝が」(39:04)等、復活祭に相応しい華やかな作品です。

ロシアの復活祭/リムスキー=コルサコフ
リムスキー=コルサコフは、チャイコフスキーやグリーグと同時代を生きたロシアの作曲家で、オーケストレーションの名人と言われるほど、色彩的で描写的な作品を残しました。アラビアンナイトの千夜一夜物語を描いた交響組曲『シェエラザード』や、異国情緒あふれた『スペイン奇想曲』など、その豪華絢爛な響きはオーケストラ曲を聴く醍醐味を感じさせてくれます。
ロシア正教の聖歌をもとにした『ロシアの復活祭』も、そんな手腕が発揮された、復活祭を祝う雰囲気にあふれた作品です。 瞑想的に始まる冒頭部分は、聖なる日曜日に向けての受難の日の厳粛さを強調し、そこからイースターの朝の奔放な喜びへと移行していきます。
因みにこの作品もリムスキー=コルサコフの作品です
熊蜂の飛行
■楽譜はこちら

ピアノピースギャラリー 06 エンターティナー(ドレミ楽譜出版社)
ピアノソロで弾く、『熊蜂の飛行』、『ラデッキー行進曲』やアンダーソンの小品が収められています

熱くなる!速弾き連弾~クラシック編BEST
(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)
こちらは連弾用の楽譜です。イベントやアンコールにピッタリの、盛り上がること間違いなしの小曲集。

歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』より『間奏曲』/マスカーニ
『間奏曲』が有名な『カヴァレリア・ルスティカーナ』、直訳すれば「田舎の騎士道」というオペラを作曲したのはイタリアのマスカーニです。プッチーニと同時代の作曲家、指揮者で、音楽院院長を務めるなど、教育者としても活躍しました。
『カヴァレリア・ルスティカーナ』は、楽譜出版社ソンゾーニョ社主催の1幕物オペラ・コンクールで圧倒的な支持を受けて優勝し、マスカーニの名を世に広めました。
復活祭の日のシチリアの田舎町を舞台に、兵役帰りの若者トゥリッドゥと、その婚約者サントゥッツァ、トゥリッドゥの元恋人であったローラ、ローラの夫で馬車屋のアルフィオの四人が絡んだ復讐と殺人が繰り広げられます。
この作品には、従来のオペラのようなヒーローやヒロインは登場しません。この作品は、生々しい感情の吐露、貧しい人々の生活ぶりなど、当時の社会情勢が描かれており、後にヴェリスモオペラと言われるジャンルの先駆けとなりました。
そんな殺伐とした内容のオペラですが、この『間奏曲』は教会で行われる復活祭ミサの場面で演奏される美しく平穏な音楽で、演奏会のアンコールなどでよく演奏されている作品です。
1:04:56 乾杯の歌 1:12:42 母さん、あの酒は強いね
■楽譜はこちら

全音ピアノピース489
「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲 マスカーニ(全音楽譜出版社)
ピアノ独奏で楽しめる「間奏曲」の楽譜です。

女声三部合唱
新・くつろぎの女声コーラス~糸~
(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)
J-POPから、「間奏曲」、「アメイジング・グレース」他、女声の美しい響きを紡ぐ1冊です。

舞台神聖祝典劇『パルジファル』/ワーグナー
復活祭に絡んだオペラと言えば、ワーグナーの最後の作品『パルジファル』も有名です。
ワーグナー自身が「舞台神聖祝典劇」と名付けたこの作品は、物語が聖金曜日(キリストが十字架にかけられた日)にクライマックスを迎えることから、ヨーロッパではこの時期に上演される定番の演目となっています。
キリストの最後の晩餐で使われた器(聖杯)と、キリストの脇腹を突いた槍(聖槍)を守る騎士団の物語という、日本人にとってはあまり馴染みのない題材で、上演に4時間以上かかる作品ですが、「前奏曲」や「聖金曜日の音楽」の宗教的な神聖な響きがクセになる作品です。

今回は、曲によってはあまりなじみがなかったかもしれませんが、この時期に似合いそうな曲を紹介させて頂きました。紹介しきれなかった春の音楽がまだまだありますが、皆様の琴線に触れる曲があれば幸いです。
何気なく聞こえてくる音楽に耳を傾け、興味をもっていただければ、新しい素敵な出会いが待っているかもしれません。そして少しだけ足を進めて、ネットで検索してみたり、楽譜を開いてみたりしてはいかがでしょうか?
楽譜は音楽にとってレシピのようなものです。同じレシピでも料理を作る人によって味が異なるように、同じ楽譜でも、演奏者によって聴こえてくる音楽は異なります。レシピを知れば料理に興味が持てるように、楽譜を見れば、その曲の隠し味が聞こえてくるかもしれません。楽器を弾くのが苦手な方も、楽譜に馴染みがない方も、簡単な楽譜の読み方をマスターし、素敵な出会いや楽しい発見を楽しんで頂ければと思います。
5月は、TVや映画で使われている、「曲は知ってるけど、タイトルとか知らんし…」的な、実はメジャーな!?クラシック音楽作品をご紹介したいと思います。
それでは、新緑の季節の大型連休を、楽しくお過ごしください(^^)/

●この記事を書いた人
もり
魚と麺類がおいしい福岡に生まれ、高校卒業後に渡欧。1年のドイツ語研修を経て、ウィーンにてピアノ、古楽奏法、音楽学、楽器法、指揮法などを学ぶ。帰国後、大学にて音楽学を専攻、同時に棒振り人生をスタート。指揮、トレーナー、講座、編曲等でクラシック系を中心に音楽と携わり、早〇十年。ニュースはスマホで読みますが、楽譜と書籍は紙印刷を今でもこよなく重宝しています。











